プラダ村に向かって

 魔法を奏上した次の日、俺達はフィールの入り口に集まっていた。

 プラダ村に行くトレーダーの護衛のためだ。

 当然ジェイドとフロライトも一緒だが、フラム達もいるから、今回はクラフターズギルドから獣車を借りている。

 やっと獣具も完成したから2匹には着けているんだが、獣車を引いてもらわないといけないから、自由に飛べるようになるのはもう少し先になるだろう。


 俺とプリムは御者席に座って、フラム、ラウス、レベッカは獣車の中にいるんだが、その獣車の中には、何故かエドとマリーナの姿があった。


「いや~!ヒポグリフが引く獣車に乗れるとは、思ってもなかったな」

「ホントにね。この子達、これでまだ子供って話だけど、既に十分、馬より力は強いみたいね」


 ヒポグリフは馬より力が強いので、1匹でも十分に獣車を引けるが、契約者の絶対数が少ないため、乗れる機会はほぼない。

ましてや2頭立てともなれば、皆無と言っていい。

 そんな珍しい、ヒポグリフ2頭立て獣車に乗ってるもんだから、やけに2人ともテンションが高いんだよな。

 もっとも、フロライトはかなりイヤそうだから、門に着いたら外してやるつもりだが。


「獣舎から詰所なんて、すぐだろ」

「それでもだよ。乗ったっていう事実が大事なんだからな」


 マリーナがうんうん、と大きく肯いて同意しているが、俺には理解できん。

 いや、まったく理解できんわけではないが、獣車を新調したらみんなでどこかに行こうかとも思ってたから、早いか遅いかの違いだけだと思うんだがな。


「最初に乗ることに意義がある!」


 そうだそうだ!とマリーナと2人して声を上げている。

 このフェアリーハーフども、どうしてくれようか……。


「おはようございます、大和さん、皆さん」


 そんなフェアリーハーフどもの相手をしていると、ミーナが挨拶をしてきた。


 トレーダーの獣車は1台だが、俺達だけじゃ人数が足りない。

 だからオーダーズギルドからも10人程が護衛についてくれることになっていて、ミーナもオーダーとして参加している。


「おはよう。ローズマリーさんも、おはようございます」

「ええ、おはようございます。本日はよろしくお願いしますね」


 オーダーをまとめるのは、サブ・オーダーズマスターのハイオーガ ローズマリーさんだ。

 さすがにオーダーズマスターのレックスさんやグラムみたいなハイオーダーを引っ張り出すわけにはいかないが、だからといって1人も来ないのは問題がある。

 だからサブ・オーダーズマスターが、ってことみたいだ。


「よう」

「おっさんも来たのか。見送りか?」

「おう。今回の依頼は、ハンターズギルドの面子もかかってるからな。送り出した後は関与できんが、見送りぐらいはさせてもらうさ」


 最近ライナスのおっさんは、かなり忙しい。

 ハンターズマスター サーシェス・トレンネルがレティセンシアのスパイということが発覚したため、暫定的にハンターズマスターとして就任しているからな。

 グランド・ハンターズマスターから直接任命されてはいるが、同じ支部にハンターズマスターが2人就任することはあり得ない。

 なので、急いでサーシェスの資格剥奪の手続きが進められているそうだが、本人がいないため、どうしても数日はかかってしまうそうだ。

 さらに、先日までフィールにいたハンターどもは、俺達が全員捕まえており、そのせいで俺達しか、ハンターがいなくなってしまっている。


 だからマイライト山脈の調査はできてないし、未だに捕らえられてないサーシェスと、その護衛についているパトリオット・プライドというレイドがあるから、オーダーズギルドとも協力してフィールの警備を強化している。

 というよりおっさん自らが、オーダーと一緒に警備している。

 そろそろどっかの街から、ハンターが来てもいいとは思うんだけどな。


「昨日だけど、一組来たよ。Cランクレイドだったけどね」


 レックスさんも顔を見せた。

 オーダーズギルドも仕事が増えていて、大変なんだよな。

 ただでさえフィールの警備に治安維持、戦闘訓練なんかをしてるのに、今はハンターの代わりに魔物を狩ったりしてるんだから、ある意味ハンター以上に人手が不足している。


「そんな時にオーダーズギルドの人手を割いちゃって、なんか申し訳ないわね」

「気にしないでください。こちらも無視するわけにはいかないですから」


 オーダーズギルドは、近隣の村も守護対象らしい。

 今回は異常種や災害種が蔓延ってたから、オーダーとしても簡単にフィールから出られなかったが、それでも何人かのオーダーはプラダ村に赴任している。

 本来なら2週間ごとに、フィールまで買い出しに行く村人の護衛をして交代、ということになっているが、今回派遣されているオーダーは、もう1ヶ月近くもプラダ村に缶詰めになっているそうだ。

 今回護衛に就くオーダーの半数は、その交代要員だ。


「みなさん、よろしくお願いします」


 セミロングの髪を軽くまとめたエルフの女性が頭を下げてくる。

 この人がプラダ村に行ってくれるトレーダー ストレアさんだ。

 実はストレアさん、リチャードさんの弟子のタロスさんの妹さんでもある。

 当然エドやマリーナも面識があり、2人の姉代わりでもあるから、俺達が護衛すると知って安心してくれていたな。


「こちらこそ、よろしくお願いします」

「こんな大変な時にプラダ村に行くことを決めてくれて、ありがとうございます!」


 フラム、ラウス、レベッカは最近までプラダ村にいたから、村がどういう状況下もよく知っている。

 今のプラダ村は、ブラック・フェンリルやグリーン・ファングが暴れ回ってたせいで、食料が不足し始めている。

 俺達が立ち寄った時も、かなり質素な食事だった。

 だから、たまたま近くにいたグラス・ボアを5匹ぐらい倒して、それを渡したんだが、すごく喜ばれたな。


「それでは出発しましょう。ストレアさんの獣車を先頭に、その周囲を我々がバトル・ホースで、最後尾はミーナ、大和さん達のヒポグリフの獣車です」


 商隊の護衛隊長でもあるローズマリーさんが、隊列を決める。

 事前に話し合って決めたことだから、特に異論も出ない。


 ちなみにストレアさんの獣車は、ミラーリングとストレージングの二重付与だ。

 御者台を含む前部にはミラーリングを付与させ、居住空間と厩舎を設置し、後部はストレージングを付与させ、大量の荷物を積めるようになっている。

 トレーダーが使う獣車は獣商車というそうで、その獣商車としては標準になるが、それでも軽く神金貨が飛ぶため、多くのトレーダーは、トレーダーズギルドを挟んで分割払いで購入しているらしい。

 ミラーリングの内装は簡素になっていて、ストレージングも普通の獣車3台分ぐらいが標準的なトレーダーの獣商車なんだが、Bランクトレーダーとはいえ、フィールから鉱石とかの輸送をメインにしているストレアさんは、それなりに稼いでいる。

 だからミラーリング内装は、6畳ほどの寝室と10畳ほどのリビングを備え、グラントプス用の厩舎は1匹ぐらいなら横になれる広さがあって、ストレージングは獣車5台分もある。

 高ランクトレーダーが使う獣商車の内装はさらに豪華で、けっこう快適だって話だな。


「ではオーダーズマスター、ハンターズマスター、出発します」

「ああ、頼む」

「気を付けてな」


 さて、出発だ。

 しっかりとストレアさんの護衛をして、プラダ村に物資を運ばないとな。

 ブラック・フェンリルやグリーン・ファングは倒してあるし、レティセンシアのスパイどもも、ハンターを含めて捕縛済みだから、道中の危険はあまりないだろう。

 だけど、油断はしないようにしないとな。

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