極炎の翼
ったく、まさか本当に、グリーン・ファングがいたとはな。
この辺りに生息してるのはグラス・ウルフとグリーン・ウルフだから、その先入観から、暗い所で見たブラック・フェンリルを、グリーン・ファングと見間違えたとばかり思ってたんだけどな。
とは言っても、いるものは仕方がない。
だけど俺は何とでもなると思うが、プリムは今のままじゃ、決定力に欠けてる気がするんだよな。
プリムの戦いは何度か見てるが、翼を上手く使うことでヒット&アウェイを繰り返す、高速戦闘型とでもいうべきスタイルだ。
翼族だけあって魔力はすごいんだが、その魔力も持て余し気味だから、上手く使えてるとは言えない。
ただ格下相手じゃ何も問題ないはないんだが、同等以上の相手だと、パワー不足が感じられる戦い方だったな。
せめて刻印術みたいに、魔法がしっかりと体系化されてればよかったんだが。
だがこれは、あくまでも刻印術師、生成者としての俺の意見であって、一般人やヘリオスオーブ目線じゃない。
本当に違う世界の、戦いに慣れた人間の意見とも言える。
プリムを含めたヘリオスオーブの人達は、個人差はあれど、プリムと似たような戦い方をする人だって多いと聞いた。
身体強化と魔力強化を行い、魔法を使って隙を作ることで、決定力不足をわずかでも補う。
これが、ヘリオスオーブの戦い方の基本だ。
魔力が多い翼族なら強化の幅も大きくなるが、基本は変わらないからな。
まあ翼族が普通かと言われれば、ほぼ間違いなく違うんだろうが。
ん?翼族?
「大和!ボーっとしてないでよ!」
「っと、悪い!」
ボーっとしてたわけじゃないが、一瞬意識を取られてたのは間違いない。
まだ戦闘中だってのに、何やってんだかな。
それよりも思いついたことを、プリムに聞いてみないと。
「プリム、灼熱の翼に風か雷を、さらに追加させることってできるか?」
「できるわけないでしょう!」
即答されてしまった。
刻印術じゃ雷は火属性に分類されてるし、火と風も相性いいから、できるんじゃないかと思ったんだけどな。
ああ、ヘリオスオーブじゃ、火と風を合わせたら雷になるんだったか?
そんなことを考えながら、ブラッド・シェイキングを発動させたマルチ・エッジをグリーン・ファングに投げつけ、避けて態勢が崩れた所を、同じくブラッド・シェイキングを発動させてあるアイアンソードで、胴体から真っ二つにする。
グラス・ウルフとグリーン・ウルフはニブルヘイムとアルフヘイムの積層術で氷らせて終わりだ。
群れ相手だからかもしれないが、広域系がかつてない利便性を発揮してくれて助かるな。
「なら俺がそいつを止めとくから、一度試してみるってのはどうだ?」
「……簡単に言ってくれるけど、そんなこと考えたこともないからできるかわからないわよ?仮にできたとしても、どれだけ魔力を消耗するかわからないし」
簡単にってわけじゃないんだけどな。
俺からすれば積層術っていう、異なる属性や系統の刻印術の同時使用は基本だから、魔法でもできるんじゃないかって思っただけだし。
「あんたにとっては普通でも、あたし達にとっては見たことも聞いたこともないのよ。何よりどうやってイメージすればいいのか、まったく想像できないしね!」
グリーン・ファングの攻撃を避けながら説明すると、そんなことを言われた。
なるほど、イメージか。
「それならプリム、強風で火事が大きくなることってあるだろ?そんな感じのイメージをしてみろ」
「風で……ああ、なるほどね!やってはみるけど時間はかかるだろうから、その間グリーン・ファングはしっかりと相手しといてよね?」
「当然だ」
俺が提案したことなんだから、足止めは最低限だ。
俺はコールド・プリズンを発動させ、グリーン・ファングの足を氷らせた。
これが火を操るファイア・ウルフやレッド・ファングだったら厳しかったが、グリーン・ファングは風を操るから、氷で固めてしまえば簡単には動けない。
なにせマイナス200度と、俺の使える最高の冷気を使ったからな。
いくら異常種特有の身体能力があっても、短時間で氷の拘束を壊すのは無理だろ。
あとは苦し紛れの風魔法による遠距離攻撃だが、そっちは普通に警戒しとけばいい。
「……風で火を煽って大火に。風を送り込んで炎に……。難しいわよ!」
さっきからプリムは灼熱の翼に風を送り込もうとしてるが、上手くいっていない。
イメージはできてるんだろうが、なんで風で火が強くなるのかってのがいまいち理解できてないって感じだな。
「プリム、多分それって、風が吹くイメージしかできてないんじゃないか?もっと火が大きくなるような、そんなイメージをしながら翼に取り込ませてみたらどうだ?」
理論や理屈なんかより、感覚で理解した方が魔法には有利な気がするしな。
もちろん理論や理屈でも問題はないだろうが、理解するのに時間がかかる。
理論なんかがしっかりしてる刻印術だって感覚で使うことが多いんだから、魔法だって問題はないと思う。
「イメージ……火が風で大きくなって、燃え盛るイメージ……」
お、なんか灼熱の翼の勢いが強くなってきたな。
これは成功したか?
「イメージって本当に大切なのね。魔力の消耗は激しいけど、今までの灼熱の翼より炎の勢いが強いわ……」
「みたいだな。いけそうか?」
「魔力の消耗が激しいけど、これぐらいなら大丈夫よ!」
そう言うとプリムは、勢いを増した灼熱の翼を広げ、グリーン・ファングに向けて、数十本ものフレイム・アローを放った。
同時にフレイム・アームズをロングスピアに纏わせ、昨日大岩を破壊した時と同じように、フィジカリングで強化された身体能力をフル活用して突っ込んでいく。
俺のコールド・プリズンで足を氷らされていたグリーン・ファングも、身の危険を感じて
そしてグリーン・ファングは、成す術もなくプリムによって体を貫かれて息絶えた。
「お見事」
「あり……がと……」
魔力を使いすぎたのかプリムの息が荒いし、少し足元がおぼつかない。
だけどその顔は満足そうに笑っていた。
うん、とっても可愛いわ。
思わずドキッとしたね。
「け、結構消耗してるみたいだから、回収は俺がやるよ。プリムはアプリコットさんと、獣車の中でゆっくりしててくれ」
「お言葉に甘えさせてもらうわ。魔法を使ってこんなに疲れたのって、実は初めてなのよ」
「無理させて悪かったな」
「いいえ、私もまた一つ強くなることができたんだから、大和には感謝してるわ」
俺、今、すっごくニヤけた面してんだろうな。
とてもじゃないが、こんな面をプリムに見られたくねえぞ。
「プリムならそのうち、考え付いたと思うけどな」
満面の笑みで、尻尾を振りながら感謝の言葉を口にするプリムにそっぽを向きながら、そっけなく返すと、俺はそのままブラック・フェンリルやグリーン・ファングをはじめとした、ウルフ種達の回収に向かった。
照れてるってバレてないよな?
「もしかして照れ……まあいいわ。それじゃ悪いけど、回収お願いね」
「あいよ~」
プリムが何か言おうとしてたけど、大丈夫だよな?
気づかれてないよな?
Side・プリム
大和が回収したのはブラック・フェンリル1匹、グリーン・ファング2匹、ウインド・ウルフ9匹、グリーン・ウルフ18匹、グラス・ウルフ23匹の計53匹。
とんでもない数の群れね。
普通の商人とか貴族とかハンターじゃ、なす術もなく死ぬわよ、これ。
まあ、そんなとんでもない群れを、大和はほとんど1人で倒しちゃったんだけど。
あたしが倒したのは、せいぜい10匹ちょっとね。
「それにしても、ブラック・フェンリルなんてのが生まれてたのに、なんでフィールやエモシオンじゃ誰も気が付かなかったんだ?異常種の上の災害種なんてのが生まれてるんだから、普通に国が出張るレベルの大問題だろ?」
大和の疑問はもっともだわ。
異常種だって目撃情報があれば、それが根も葉もない噂であっても、Sランク以上のハンターに詳細な調査が依頼されるんだから、相手が災害種なら言わずもがなよ。
異常種や災害種を相手にしたら生き残るのは難しいけど、それでもグリーン・ファングの目撃情報はあったんだから、最低でもそっちの調査はされてないとおかしい。
本当、どうなってるのかしら?
「確かに気になるけど、ここで考えてても仕方がないわ。フィールで2人がハンター登録をしたら、そこで話を聞けば、少しはわかるでしょう。さすがに問題が解決してるなんて、ハンターズギルドも思ってないでしょうけどね」
母様の言う通りね。
今ここで考えてても、どうにもならないわ。
「それしかないか。それにこれだけの数を倒したんだから、少なくともウルフ種は、もう襲ってこないんじゃないか?」
「かもしれないわね。その分、他の魔物が襲ってくる可能性があるけど」
グラントプスのオネストがいるから、そうそう襲われることはないと思うけどね。
まあ、頭の悪いゴブリンとかなら襲ってくる可能性があるけど、それぐらいなら脅威にはならないし。
「まあブラック・フェンリルやグリーン・ファングクラスは、そうそう出てこないだろうな。それよりプリム、体調の方は大丈夫か?」
「え?ああ、うん。大丈夫だけど?」
いきなりあたしの体調なんて聞いて、どうかしたのかしら?
「そっか。いや、さっきは無理させたんじゃないかと思ってたからな。問題ないならいいんだ」
さっきって……ああ、グリーン・ファングを倒した時のことね。
確かに今までにないぐらい魔力を消耗したし、緊張が解けたからどっと疲れがでてきたけど、グリーン・ファングを無傷で倒せたんだから、あれぐらいは許容範囲内、っていうか、あの程度で倒せたことが奇跡だと思ってるわよ。
それに大和のおかげで、灼熱の翼を強化するための方法もわかったしね。
だけど心配してくれるんだ。
なんか嬉しいかも。
「良い雰囲気の所悪いんだけど、オネストが警戒してるみたいよ?」
はっ!
母様にツッコまれるまで、普通に大和と見つめ合ってた気がするわ!
恐る恐る母様の方に視線を向けてみると、案の定ニヤニヤしながらあたしのことを見てるし!
「あ~、警戒ってことは、ゴブリンか何かでも来ましたか?」
大和も母様に視線を合わせないようにしてるけど、照れてるのが丸わかりよ。
あたしにもわかるんだから、母様が気付いてないわけがない。
「ゴブリンみたいね。今までより警戒してないみたいだから、本当に最低ランクの下級種しかいないんでしょうけど」
だったらオネストでも、問題なく倒せるでしょ!
いや、さっきかなり無理をさせたから、そんなことはさせないけどさ!
「えーっと……ああ、これか。距離は20メートルってとこだな。こっちの様子を見てるって感じだから、襲ってこないんじゃないかな?」
それにしても便利ね、刻印術って。
確か、ソナー・ウェーブだっけ?
自分を中心に網を広げて、指定した条件にあった対象だけ感知することができるなんて、そんなの
あ、
「本当に便利ね、刻印術って。刻印術を付与させた魔導具を作って売りに出せば、それだけで一財産じゃないかしら?」
「考えなかったって言えば嘘になりますけど、さすがに金を出せば万人が買えるとなると、簡単にはできませんよ。俺の世界じゃこいつが実用化されてることもあって、結構な問題になることだってあるんですから」
大和が刻印具を見ながら苦笑している。
聞けば大和の世界って、刻印術師はそんなに多くないらしいけど、安価で刻印具を手に入れることができるから、誰でも刻印術が使えるそうなの。
だから刻印術を悪用する人が、後を絶たないんだって。
そんな話を聞いたら、刻印術を付与させた魔導具なんて、絶対に出回らせたくないわね。
ヘリオスオーブでも絶対に悪用しようと考えるバカは出てくるから、今以上にバカが増えること間違いなしだわ。
「っと、どうやらゴブリンどもは逃げたみたいですね。多分、オネストに恐れをなしたんでしょう」
普通の馬が引く獣車より速いってのもあるだろうけど、やっぱりグラントプスにケンカを売るゴブリンはいないわよね。
だけど今はゴブリンことより、強化された灼熱の翼のことだわ。
まだ爆風の翼を重ねたというより、無理やり風を送り込んだっていう感じだから、もうちょっと精度を上げないと魔力の消耗がバカにならないし、とても実戦じゃ使えない。
フィールでハンター登録を終えたら、狩りの合間に色々と試してみないといけないわ。
「ところでプリム、爆風の翼で強化した灼熱の翼なんだけどな、
「極炎の翼?悪くないけど大仰すぎないかしら?」
名前からして灼熱の翼より強力だってことはわかるんだけど、まだまだ完成には程遠いから、完全に名前負けしてるわよ?
「グリーン・ファングを単独で倒せたんだから、大仰ってことはないだろ。それに練習には俺も付き合うし、アドバイスもできると思う」
アドバイスはありがたいわね。
なにせあたしは、なんで風が火を強くするのか、よくわかってないし。
そういえば、雷もどうとかって言ってた気がするわね。
雷は刻印術じゃ火属性扱いだから、大和は出来るって思ってるみたいだけど、魔法じゃ別属性だし、火と風の
羽纏魔法の迅雷の翼だって、制御を間違えたら自爆しちゃうかもしれないし。
それも大和なら、何とかしてくれそうな気がするけどね。
羽纏魔法には
あたしの場合は灼熱の翼を使うことが多くて、次に爆風の翼ってとこね。
迅雷の翼は火と風の
だけど使えないわけじゃないから、いずれは極炎の翼に組み込むことができるかもしれない。
まだ先は長いだろうけど、新しい羽纏魔法なんて考えたこともなかったわ。
フィールに着いてからの楽しみも増えたし、すっごく面白そうだしね。
しっかりと大和のアドバイスを聞かないといけないわね、これは。
あたしは先のこと、極炎の翼のこと、そして大和のことを考えながら、フィールまでの旅路を楽しむことにした。
幸い魔物に襲われることもなかったから、ゆっくりと考える余裕があったわ。
そして日が沈みかけた頃、あたし達はついに目的地でもあるアミスター王国北部にある山と湖に囲まれた
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます