16.文化祭レビュアーズ:後編 11
「ああ、そのくらいならお安い…ん?いや待った。なんだって?」
新田は自分の耳を疑った。敢えて、敢えて訝しげな表情を作ってやや上目遣いに不二の表情を伺う。
そこにあるのはまるで絵に描いたような、無表情な満面の笑み。
「満点取ったら勝利のキスをくださいって言いました」
改めて念を押すようにゆっくりと言い聞かされて彼女は顔を引き攣らせるが、彼はそんなことはお構いなしに、むしろ彼もまた敢えてお構いなしな態度を作って的へ向き直った。
「それじゃいきますよー」
「いやいやちょっと、おい不二くん!?」
不二が投擲モーションに入って慌てる新田。
勝利のキス?キスっていやいや冗談だろうだいたい公衆の面前で言うようなことかこれは投げる前に止めなくては止めるんだ私すくなくとも拒否の言葉を口にしておけば満点取れたとしても拒否の名分が立つそうだ拒否すればいい私は承諾していない一方的な口約束なんてなんの意味がある勝手にやらせておけばいい私には関係ないと言い張れば。
言い張れば、彼はがっかりするだろうな。
おのれ、汚い手を使う後輩だ。
その複雑な葛藤に刹那しかない時間を消費してしまい、結局なんの意思表示をする暇もなくダーツは不二の手を離れて飛んでいた。
「え。あっ!?」
焦ったところでもう遅い。真っ直ぐに飛んでいったダーツは的のほぼ中心、しかし四点と五点の境目に金属の擦れる音と共に深々と突き刺さる。境目になっている金属フレームに当たったのだ。
四点なのか?五点なのか?もし五点だったら満点だ。この場合やはり勝利のキスをすべきなのだろうか。いやご褒美をあげるとは言ったが内容を決めたのは不二くんだし私は承諾もしていない。しかし明確に拒否したわけでもなくダーツはもう的に刺さってしまったあとだ。
どうする…?
緊張と混乱で顔を紅潮させて破裂しそうな心臓を抑え呻く新田の前で、売り子がゆっくりとダーツを抜いた。
「あーこれ四点側に刺さってますね。うーん、惜しい!でも一位更新ですよおめでとうございますっ!!」
売り子の声に不二は薄ら笑みで残念そうに肩を落とし、新田はがくりと膝をついた。
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