14.逢瀬は成れど穏やかならざり 11

 夕方、ふたりは更衣室で別れ施設の前で待ち合わせた。


 帰りはどういうわけか新田のほうが早く支度が終わったらしい。彼女は今日のために恥を忍んで数少ない友人に見繕って貰った濃淡赤黄と四種の朽葉色の半そでワンピースにつば広の麦わら帽子姿でぼんやりと突っ立っている。


 夏休みが終わったといってもまだ9月、昼間は日差しが強いけれども日が傾き始めると若干涼やかさも感じられる。


 書店で配っていた秋田犬の団扇であおぎながら「やはり夏休み明けにしておいて正解だったな」などと考えているとバタバタと不二が更衣室から現れた。

 少々他愛ない会話を交わして自動販売機でペットボトルを買うと、駅までの無料送迎バスに乗り込み並んで座る。

 小刻みなエンジンの震えと緩やかな揺れに身を任せるとどっと疲れが押し寄せてきた。

 疲れに抗えず新田が隣の不二に体を預け気味にウトウトしはじめると、その無防備なぬくもりにドギマギとしながら不二は改めて一日を思い返す。


 ここに至るまでの経緯を考えるともうちょっと渋々みたいな感じになるのかと思いきや、あんなにはしゃいでいる新田は初めて見た。ふたり乗りのスライダーも自分から乗りに行ったくらいだし、設備の予習もしてた辺り楽しみにしていたというのは社交辞令ではなく本当だったのだろう。

 彼女が楽しんでくれたのであれば本当に誘って良かった。


 とはいえチンピラまがいの男たちに突っかかって行くのには冷や冷やしたけれども。


 いくらプールのなかで触られたといっても目撃者はいないしシラを切られると弱い。だから故意に衆目を集めてわざと手をだされようとしたのだろう。

 そして目論見どおり警備員や監視員が駆け付けたとき彼らは言い逃れのできない状況だった。

 実に彼女らしい行動ではあったけれども、危うく怪我をするところだったのも確かだ。穏やかな日々を平気で蹴り飛ばしてしまう気性は彼女の魅力でもあるけれど、あまりにも油断ならない。


 愛らしい寝顔を見ながら思う。遊びに誘うなら彼女から目を離してはいけない。いや、僕が守らなくては。


 とはいえ。


 そんな決意とは裏腹に、自身もまた疲れに微睡んでいく不二だった。

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