11.明日への優待券 7
「ところで今とても失礼なことを考えてなかったかい?」
「そんなこと、ないですよー?」
にこーっと作り笑いを浮かべる不二。
「考えてた顔だなそれは。ともあれ」
「はいともあれ」
チケットをひらひらをさせながら新田が笑みを浮かべる。
それはいつになく穏やかで、暖かなまなざしの。
「四季報の原稿とこの無料優待券を交換しないかい?今ならサービスとしてキミの敬愛する先輩が付き添ってくれるよ」
「どうしようかな…」
「ここは目を輝かせて快諾するところじゃあないかな?」
「僕がそんな素直な人間に見えます?」
「見えないけれど。自分で素直だって言ってなかったかい?
「おっとこれは一本取られましたね」
ふたりで顔を見合わせてクスクスと笑い合う。
「わかりました。ただ少し前払いでいただけません?」
「この欲しがりさんめ。まあ聞くだけは聞こうじゃないか」
「ええとですね。執筆指南をお願いしたいんですけど。締め切りがあまりにも近いので、できればなるべくこまめに」
「なるほど、SNSもあるしそんなことならいつでも」
「そこはなるべく対面で」
「ええ…この暑いのに私にまだ何度も出てこいと?」
「大事な後任育成のためですよ先輩」
「ぐむむ…まあ、仕方ないか。私も苦労して手に入れた無料優待券をむざむざ紙切れにするのは忍びないからね」
「苦労して?」
「おっと今のは失言だった。忘れるように」
「あ、はい」
「…」
「…苦労したんですか?」
「わ す れ る よ う に」
少し頬を染めてそっぽを向いてしまった先輩はどういうつもりでこの優待券を入手したのだろう。
それは自分が期待するような理由だろうか。
お世辞にも経験豊富とは言い難い不二にそれを推し量り断定するだけの勇気はなかったけれども、それでもやる気を出すには十分だった。
「わかりましたよ。執筆指南の言質も取りましたしね」
「よろしい」
「ところでどうして屋内プールなら良いんです?」
「屋内が良いというより外が嫌なんだよ。暑いし。それだけの話さ」
「なるほど。先輩のことだからてっきりタダで僕の要望を飲むのが嫌なだけなのかと」
「そんなことはないよ。そんなことはないよ」
「なんで二回言ったんです?」
「いいからっ」
「あ、はい」
「それよりまずはお題を選ぼう。募集要綱を把握して今日のうちにだいたいの傾向を決めて、明日にはざっくりと書きたいものを出して貰うからね」
「わ、わかりました…頑張らないとなあ」
夏休みは残り十日ほどだけれども、不二にとってはむしろここからが本番になるのだった。
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