第5話 計画の種を爆明かししますわ
王都の貴族街に響き渡った爆音騒ぎは、当然のように貴族たちの間で話題になりました。
爆音がベルグリット侯爵家の中から聞こえたのを多くの人が聞き、さらに建物が空へと打ち上がるのを目撃した人もいたのですから当然です。
事故か事件か、はたまた敵対する外国勢力によるテロかと大騒動を巻き起こし、一時は国王陛下の親衛隊までもが引っ張り出される有り様でした。
これで一番困ったのは、当然ながら現ベルグリット侯爵閣下、つまりはザウアーのお父様です。
何せ息子がオーランド・リーンベルク様を、王子殿下の従兄弟であらせられる方を秘密裏に屋敷に招いて、そこで爆発騒ぎを起こしたのですから。一歩間違ってオーランド様が亡くなりでもすれば、王の親族を殺めた家として一族連座で死罪になっていてもおかしくありませんでしたわ。
ベルグリット侯爵閣下は自身の屋敷で起こった「事故」に関する噂の打ち消しとともに、どこからか流れた「事故の現場にはオーランド・リーンベルクもいた」という噂まで打ち消すために奔走されているそうです。
「とてもお気の毒なことですわね、マルコ様」
「は、ははは……ベルグリット侯爵閣下も、まさかエレーナがオーランド様の噂を広めたとは思ってもみないだろうね」
「あら、何のことでしょうか?」
苦笑いで言ったマルコ様に、私はそうお答えしました。
オーランド様が違法奴隷をいたぶり殺して遊ぶためにベルグリット侯爵家を訪れ、しかもその手引きをしたのが現当主の嫡子ザウアーであるという噂など、私は広めていませんわ。表向きには。
「ともかく、これで王国内でのベルグリット侯爵家の評価が大きく落ち込んだのは間違いありませんわね。マルコ様のオルグレン侯爵家の安泰は約束されたようなものですわ」
「……はい。頼りない僕のためにありがとうございます、エレーナ」
「マルコ様……マルコ様のためなら、私は建物の一つや二つくらいいくらでも爆破しますわ」
優しく微笑まれるマルコ様に、私はそう忠誠と愛をお伝えして彼の手を握りました。
・・・・・
私たちの計画はシンプルでした。
まず、マルコ様のご実家であるオルグレン侯爵家の情報網や工作員を使い、ザウアーに探られて痛い腹がないかを探ります。
すると、彼の違法奴隷虐めという下劣な秘密の趣味が発覚し、さらに同じ趣味を持つ者としてオーランド様に「一緒に遊ぶ」誘いをしているという事実が明らかになりました。
これも、純粋な武家として名を馳せるベルグリット侯爵家とは違い、諜報戦などの非正規戦についても秀でたオルグレン侯爵家のお力があったからこそ知り得た情報です。
次は、ザウアーが仕入れようとした奴隷を、別の荷――私が手ずから作り上げた魔道爆弾とすり替えます。これはザウアーが声をかけていた密輸商を捕まえて、ちょっと力づくでお願いすれば簡単に叶いました。
後は、魔道爆弾がベルグリット侯爵家の離れに運び込まれるのを待ちます。
荷運び係には、これまたオルグレン侯爵家の子飼いの工作員を紛れ込ませました。
この工作員が離れを去る際に、魔道爆弾のスイッチを押しておけば、あとは作動の時を待つだけです。
私が爆弾に施したのは「スイッチ作動後に傍にいた人間が離れた後、爆弾の一定範囲内に新たに一定以上の大きさの生命体が近づくと爆発する」という仕掛け。つまりは人間の接近を察知して爆発する仕組みです。
本来は不意打ち用の地雷として使われる仕掛けですが、私はあえて接近の探知範囲を広げ、ザウアーとオーランド様が重傷を負わない距離で爆発するように設定しました。
また、できるだけ派手に炎が上がるように爆薬を調整し、さらに爆発が横ではなく上方向に突き抜けるように爆薬をセットしましたわ。
これで、ザウアーやオーランド様を直接的に殺傷する心配なく、騒ぎを巻き起こして彼らを大いに困らせることに成功したのです。
「今はベルグリット侯爵閣下も、巻き込まれたリーンベルク公爵閣下も噂の火消しに追われているようですが、事態が落ち着いた後、ザウアーにどのような沙汰が下されるか楽しみですわね」
「これほどの失態に侯爵家の継嗣を巻き込んだとなれば、ただでは済まないでしょうね……ベルグリット侯爵家がオーランド様の暗殺を謀ったという噂までされていますから」
高性能爆薬を使った事件で、しかもザウアーが私との婚約を破棄したばかりということで私にも疑惑の目が多少は向くかもしれませんが、全ての証拠はオルグレン侯爵家によって完全に消されています。
私たちの計画は完璧に果たされました。後はザウアーが落ちぶれる様を見守るだけですわ。
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