第二章

今世の罰は今世で支払う。



❈ ❈ ❈


あの日……兄が十五歳になり、教会へ祈りを捧げに行った。

十五になった年に、教会で神の祝福を受けるのだ。

その時、私はその村の領主に目をつけられた。

「商人なら金で娘を売れ」と言われたのだ。

もちろん、父ははねつけた。

─── それが家族を殺された理由だ。

他国の人間が聖女になどなるはずも、なれるはずもなかった。

しかし、私の家族を皆殺しにした理由……罰を受けずに済む口実として、教会と結託して私を聖女に仕立て上げようとした。

そこで、私が実際に聖女になれるだけの器だと知った教会が領主を裏切り、自身の出世のために私を王都の教会に差し出した。

そして、私が真実を漏らさないために、家族の墓を村の教会が管理するという形をとった。

私は家族が埋葬された夜に、教会側に気付かれないように抜け出して家族全員の棺を収納ボックスに移した。

そのため、教会には名前の刻まれた墓碑だけが残された。


その事実を知っているのは先代の聖女だけ。

私が先代の聖女に真実をすべて話し、先代の聖女が教主に「次代の聖女の家族は領主と教会が皆殺しにした。その家族の墓に棺はない」とだけ伝えた。

そして、わざと私が真実を語ったことを村の教会に伝えさせた。

その上で、教会に眠っている私の家族の棺を王都に……私のそばに埋葬し直すとも伝えた。


「死者の眠りを妨げる気か‼︎」

「人質のように遠いこの地にいるより、次代様のおそばの方が安心して眠られるだろう」


主教会の使者たちが丁寧に墓碑の下を掘ったが、出てくるのは土のみ。

先代の聖女から聞いた通り、次代聖女わたしの家族の棺は出なかった。

それを知らされた教会の連中は責任を取らされることになり、領主が主犯だと訴えて罪をなすりつけようとした。

─── それは、ある意味成功した。

領主が私を手に入れるために家族を皆殺しにした事実を領主の侍従たちが自供したのだ。

今までにも見た目の良い子供を金で買い、断られたら家族を皆殺しにしてでも手に入れてきた。

そうして手に入れた子供を、領主は暴力と性欲の捌け口とし、最終的に撲殺してきた。

逃げ出せば『鹿狩り』と称して馬に乗り追い回して射抜く。

─── 領主のすべての飼い犬は柔らかな子供の肉の味を覚えてしまっていた。

そのため、自領の孤児を連れてきては飼い犬に生きたまま与えられていた。

骨も噛み砕かれて残っていないと思われた証拠だったが、飼い犬が骨の一部を地面に埋めて残していたものがいくつも見つかり、証拠として集められた。

その上で、家族の棺の紛失の責任を問われることになった。

その結果、領主と教会に属する、計画に加担した者たちは全員破門された。


教会の権力が強いアノール国では、破門イコール魔物や魑魅魍魎と同義語だった。

主教会による破門宣言と同時に、全身……肌の色もすべて全部闇で塗ったように真っ黒に姿を変えた。

日に焼けた黒色ではなく、漆黒の闇と同化する黒色。

陽の下でも物の影と同化出来そうな色だった。

そして、両手の甲に浮かび上がる、血のように真っ赤な紋。

それは翌年には両肘まで広がり、さらに一年が過ぎると肩まで。

そうして胸から腹部、そして足へと順番に下がっていく。

両足まで年々部位ごとに広がり、両足の甲に紋が現れると、今度はふくらはぎや太もも、臀部を経て背中へとゆっくり上がっていく。

肩から首、そして顔へと紋が広がっていく。

頬の次に額に紋がでると肌が鱗のようになり、紋が頭部に到達する頃には……伝説では姿形も心も魑魅魍魎と化す。


大抵は、主教会の地下牢に拘束されて、魑魅魍魎となるまで人体実験を受けているため、事実は不明。

魑魅魍魎となった者が人に戻れるかどうかの研究のためだと聞かされた。

そして、保護の意味もある。

これは罰のため、殺して楽にしてあげようと考えてはいけない。

─── 神の罰なのだから。

しかし、殺して楽にしてあげようと考える家族や仲間はおり、襲撃を企む者すら現れる。

今世の罰は今世で支払う。

そうじゃないと、来世で二重の罰を受ける。

来世で幸せになりたければ、『死んで逃げる』ということはしない方がいいのだ。

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