会敵2 ミア1
ミアに撤収を命じて15分もすると俺のスコープには単車に乗りこちらに向かってくるミアの姿が見えて来た。
街道の周囲は遮るものは何もなく、少し離れたとこに森が広がっている。なので、俺の場所からは河が作り上げた河岸段丘の最下層部を這うように伸びる街道の人の流れは前方3㎞に渡って手に取るようにわかる。
ミアは金髪をなびかせ、ゴーグルで目を覆い、高い鼻と薄く血色のいい唇に透けるような白い肌。
何を思ったか、ショートパンツに迷彩Tシャツ一枚でハーネスを纏い小型のナイフとマガジンをいくつか仕込んで、右太ももにハンドガンをホールドしている。それから、背中には全長1450mm、バレル長740mmのボルトアクションライフルと昼夜兼用スナイプスコープをつけた総重量16kg超えの大型システムを背負ってかっとんでくる……それにしても、あいつ、朝とは少しいで立ちが違うような……
単車は俺が昔、近くの村にあったものを部品を探してレストアしたものだ。フレーム、エンジン、フォーク以外は合う部品の寄せ集めだ。と言っても、大昔の電子機器をほぼ使っていない代物なのでああやって動いている。
今は、大戦の混乱でテクノロジーなどと言えるような大掛かりなものはすっかり消失して、高度な集積回路は生産できていない。俺の手元にある携帯端末も街を一歩出れば文鎮以下だ。強いて言えば、軍用品の技術はまだ使えるものがあるが、それにしてもスコープに写されるリアルタイムの情報伝送ぐらいか……どちらにしても、この時代で強いのは高度な技術は必要としない機械だけで動く100年以上前のクラッシック品だ。
ミアが乗っている単車は本当か知らんが、その昔アフリカの砂漠を横断するために使われていたとか言っていたが、確かめる術を俺は知らない。そんなレガシィよりも水平対向の独特な音にミアはまいって俺から奪うとそれっきり返す様子がないという事だ。
それにしても、よくもまあ、あんなでかい単車を軽々と振り回すものだ。道の轍をあえてかどうか知らないがときおりジャンプしながら、爆走中だ。
ヒャッハーの一言でも聞こえてきそうな勢いである。
測距用モノスコープのカウンターが1000を切ったころ、こちらに気づいてミアが手を振っている。相変わらず目がいいな。こうしてみると可愛い嬢ちゃんなのだが……嬢ちゃんってそれほど歳は離れてないか。自分で言ってておかしい。
ミアは俺が軍にいた時の最後の作戦、シュヴァルツヴァルト撤退戦の戦利品だ。いや、言い方が悪いな。戦利嬢だ。同じか。
俺は、敵に落ちたシュヴァルツヴァルトで民間人諸々の救出作戦に参加していたのだが、あいつはその時に交戦した敵が連れていた捕虜だった。ウィダースタンド(レジスタンス)として敵につかまり手枷、足枷をされて猿轡もされてたかな……まあ、何にしろ相当暴れたのだろう。俺達のチームは偶然そいつらと戦ったに過ぎなかったが、シンガリのチームであった俺達は、もうなんでも良くて、敵以外は自国に連れて帰らなければならなかったのが一番大きい。
そして、チーム責任者であった俺の指示のもとミアを解放した。
ミアはあのままいけば、買春宿あたりに売り飛ばされていただろう。
ミアの弁によれば、仲間に裏切られた結果、捕まったとのことだ。それを恩義に思ったのか、敵の敵は味方ってなところなのか、それから、俺と共に行動している。
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