第623話 遊び
「ふっ!」
俺はイムに近付いて両腕を振り下ろして剣を振った。しかし、その2本の剣は簡単にイムに摘まれてしまった。
「あははっ!どうしたの?動きが硬いよ?僕に近付いて緊張でもしてるの?」
「わかってるくせに!」
俺はうんともすんとも言わない剣をイムから奪うことを諦めて、下がって距離を取ることで自動で手元に戻した。
ちなみに、ステータスがかなり上がったのにイムに簡単に攻撃が止められた理由は俺が今のステータスに慣れていないからだ。エンチャントなどで一時的に上がる分なら慣れているのでまだ対応可能だが、素のステータスが倍近くも上がって上手く身体がコントロールできていない。
「慣れるまで遊んであげるからどんどん来なよ」
「そうかい!」
どうやら、イムは本気で俺には負けないと思っているようで、まだまだ余裕そうだ。それなら、それに遠慮なく甘えさせてもらおう。
「ほら、足元が疎かだよ」
「今度は手元が遊んでるよ」
「次は目線がおかしい」
イムは俺と戦いながら敵である俺にアドバイスまでしている。本当にイムからしたらこれは遊びの一環なのかもしれない。だが、それを後で絶対に後悔させてやる。
「うんうん!だいぶ動きも良くなったね」
「おかげさまでな」
恐らく、30分ほどは戦っただろうか。その頃にはもう今のステータスにも慣れて、ほぼいつも通りに近い感覚で身体をコントロールできるようになった。
「そろそろ、満足した?」
「満足してないって言ったらまだ遊んでくれるのか?」
「ううん」
俺の質問の答えは否定の言葉だった。しかし、それは俺も予想していた答えでもあった。
「ダーリンがまだ僕と遊びたいって言ってくれるのは嬉しいけど、そろそろ僕が我慢できないの」
イムは口だけを笑わさせてそう言った。邪神とはいえ、元は魔族だったからか、さっきも途中から何度か手を出しそうになっていた。しかし、さっきまではその都度何とか自分で抑えていたが、最後の方は抑えるのがギリギリになっていて、俺が避けなければ攻撃が当たっていたかもしれない場面もあった。
「ダーリンが僕の物になったら後で好きなだけ遊んであげるからね。代わりに僕もダーリンで遊ばせてもらうけど!」
イムはそう言い終えると、初めて自分から向かってきた。
「やっ!」
「ふっ…!」
そして、右拳をそのまま俺に振ってきた。威力はあったが、あまりにも単純な攻撃であったため、俺はそれを簡単に剣で受け流すことができた。
(ステータス面ではイムの方がまだ上か…)
しかし、今の一通りの行動でステータスではまだ負けていることがわかった。俺にやってくるまでのスピードと今の攻撃で少なくても【敏捷】と【攻撃】では負けている。俺のステータスで1番高い数値のその2つが負けていたら他も負けているだろう。
「はっ!」
カウンター気味で俺はもう1本の剣を下からイムの胸付近目掛けて振り上げた。
「えっ!?」
しかし、俺はそんな驚きの声が出てしまった。俺の攻撃はイムにガードされることなく、狙い通り胸辺りに当たった。問題はその感触だ。剣から伝わってくるのはぶよぶよした感触だけで、斬れることは無かった。
「だめだめ。僕に本気でダメージを与えたいならこれくらいしないと!」
「っ!?」
イムは左腕の肘から先を剣のような形にすると、さっきの拳の大振りは何だったと思うほど鋭く俺の顔目掛けて振ってきた。俺は反射的に顔を限界まで横にずらすことで、頬が薄く斬れる程度で済んだ。
「はあはあ…」
「どうしたのかな?」
俺は急いでイムから一旦距離を取った。イムの今の攻撃だけで危機絶対感知が有り得ないほど反応していた。
「…あれの反応が少しでも遅れたら俺は死んでたぞ」
「今生きてるからいいでしょ?」
さっきの攻撃は俺の反応が遅れていたら口当たりから俺の顔は横に真っ二つになっていた。イムは今までの発言からして、俺を殺す気はないと思っていたが、油断していたら簡単に死ぬな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます