第507話 心配

『ピコーン!』

『レベルが上がりました』

『レベルが上がりました』

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「おろ…っと…」


地面に降りた時にエンチャントの強化が解除されたことでの感覚が少し狂ったのかよろけてしまった。着地して一息ついて、他の強化も全部解除した。

それにしても、何とかベヒモスの首を落とせてよかった。神雷Lv.3のスキルの内容は完全回復だ。具体的には、身体の負傷と疲労を全て治してくれる。さらに、3分間はどんな攻撃であろうとダメージを受けない。そのおかげで俺は全力でエンチャントできたのだ。なぜ神雷Lv.3の内容がこの2つになったのかは何となく予想ができる。

まず、死にたくないから傷を全回復できるようにする。さらに、回復したところで生き埋め状態のため、腕や足が瓦礫に挟まっていたら結局潰れてしまう。だから3分間の無敵状態もあったのだろう。

ただ、この強力な効果には神雷Lv.1のよりは軽いけど代償がある。それは、3分経過後から神雷というスキル自体が1日使えないことと、神雷の使用制限の1日が経過した後に1週間である6日間は神雷Lv.3を使えないというものと、神雷Lv.3が使えるようになる7日間ステータスの数値が下がることだ。この代償があったから俺の神雷クアドラプルハーフエンチャントと神雷纏は勝手に切れたのだ。ちなみに、ステータスがどんなふうに下がったかはステータスを見てみないと分からない。


「お兄ちゃんっ!」


「あ、ソフィ…」


俺が地面に降りると、ソフィが俺の名を呼びながら走ってやってきた。俺は色々と怒られると思って少し身構えた。



「え…?」


しかし、ソフィは何も言わずに走ってきた勢いのまま俺に抱き着いた。


「生きてる…生きてる…!」


「…心配かけてごめんな。ちゃんと生きてるよ。もう妹を置いて1人で死なないよ」


1年くらい前ではソフィと俺の背はほとんど同じだったが、最近になって俺も背が伸びてきたのかソフィは俺の肩に顔を埋めながら泣いた。俺は頭を撫でながらソフィが落ち着くのを待った。


「魔力感知でも場所が分からないし、すぐ近くにベヒモスが居たから…」


「ごめんな」


俺が瓦礫の下に居た時はソフィは凄く不安だったのだろう。だって、霹靂神を放った直後だったし、気絶したことで精霊界からの魔力の供給も切れたので俺の魔力はほとんど空だった。だから魔力感知では詳しい場所がわからない。探しに行こうにも近くにいるベヒモスを刺激して暴れられて踏まれでもしたら確実に死んでしまうし、そもそも瓦礫を動かしただけで潰れる可能性もあった。助けに行きたくても行けない。ソフィの心中はごちゃごちゃになっていたのだろう。



ドーーンっ!!


「っ!」


横で大きな音がしたので、何事かと警戒したが、その音の正体はベヒモスの胴体が横に倒れた音だった。そういえば、首を落としても立ったままだったな。その轟音が収まると、街は静けさに包まれた。俺が聞こえるのはソフィの泣き声くらいだ。


「あっ…」


ソフィの頭を撫でながら倒れたベヒモスの方を見て気がついた。城壁の1部が完全に破壊されているし、城壁近くの建物も全壊している。あんな巨体が数歩だとしても街に入ったらこうなるのか。


「おおおお!」

「すげえええ!!」

「何だ今の!?」


「うおっ!」


しかし、その静けさは一瞬でどこに隠れていたのかというほどの人が現れて騒ぎ出した。驚いて声が出てしまった。


「はいはい!ベヒモスを見たいのはわかるけど、壁も壊れてるし、魔物がいつ入ってきてもおかしくないから離れて。危ないよー」


ベヒモスの死体に近寄ろうとした市民たちをウォレスさん達が止めてくれていた。



「王都に入ってきた時はもう無理だと思ってたけど、何とか死者無しで倒せたようでよかったよ。本当にありがとう」


「ギルド長…」


俺の後ろからギルド長がやってきて俺にそう話しかけた。


「こんなのが置いてあると、野次馬は集まり続けるだろうから、どうにかしたいんだけど、マジックリングの中に入る?」


「試してみます」


多分入ると思うが、試してみないと分からない。


「ソ」


「や!」


マジックリングに入るか確かめるためにベヒモスに近寄らなければならない。そのためには抱き着いているソフィが少し邪魔なので離れてと言うために名前を呼ぼうとしたが、名前を呼ぶ前に断られてしまった。仕方が無いので、少し動きづらいが、ベヒモスに近付いてマジックリングに入れた。頭と胴体で容量ギリギリの気がしたが、何とか入れることができた。そろそろマジックリングの中の魔物の在庫処分をしないといけないな。


「今日は報酬って話をしてる場合じゃないし、疲れもあるだろうから一旦帰って休んでいいわ。それで明日ギルドに来てちょうだい」


「分かりました」


確かに一瞬で王都はお祭りなんかとは比較にならないほど騒がしくなっている。これじゃあ落ち着いて話せる場所はないだろう。

それに、俺は完全回復のおかげで大丈夫だが、他の5人は徹夜で戦い続けた疲労は凄まじいだろう。シャナも含めた俺達は俺とソフィの屋敷に帰って眠った。ちなみに、ソフィは離れる気配がなかったので、隠密を使って抱っこの形でソフィを少し抱き上げて屋敷まで連れていった。ソフィは抱っこで移動している最中に眠ってしまったので、魔法で身体を綺麗にしてソフィと共にベッドで横になって眠った。眠っても全く抜け出せないのがすごいな。

ちなみに、疲れが取れているから大丈夫かと思っていたが、眠気までは回復できていなかったのか俺もベッドに横になったらソフィの寝息を聞きながらすぐに眠ってしまった。



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