第486話 剣完成
「やっぱり作るのが難しいのかな?」
「そりゃあ、初めて見た鉱石で剣を作ろうとしてるんだから難しいだろ」
俺が精霊界から帰ってきてもう10日経った。それなのに、まだグラデンは鍛治室から出てこない。
「生きてはいるんだろうけど、大丈夫かな?」
メイドが鍛治室の前に置いた食べ物や飲み物はちゃんと無くなっているらしい。だからグラデンが鍛治室の中で生きているのはわかっている。ただ、何の音沙汰もないだけだ。
「本当だったら手を貸した方がいいんだろうけど…」
「入るなって言われてるからな」
鍛治室には絶対に無断で入るなと言われている。だからこっちから手伝おうか?とも言いに行けない。
「まあ、グラデンなら大丈夫だろ。俺達は俺達で強くなるために頑張ろうぜ」
「そうだな」
いくらグラデンのことを気にしても鍛冶師でもない俺達ができることなんてないだろう。ここはグラデンを信じて待つしかない。俺は引き続きベクアとの組手を始めた。
「いくぜ!らあっ!」
「はあっ!」
俺とベクアの拳と拳がぶつかり合った。今は剣もないので、武器と魔法を無しにしてベクアと戦っている。俺は剣を使いながらでも結構殴ったり蹴ったりするので、それを磨いているのだ。
ちなみに、武器と魔法無しだと、獣化と氷雪纏と魔力纏をしているベクアに獣化と悪魔化と悪魔憑き、神雷エンチャント、神雷纏を使ってやっと互角くらいだ。
その後はベクア以外とも似たような条件で戦った。そして、それから5日後、つまり、鍛治室にこもってから17日後にやっとグラデンは鍛冶室から姿を表した。
「グラデン!」
「よお…元気してたか?」
グラデンは俺達が特訓している最中の試作場にやってきた。心做しか前に見た時よりもやつれていたり、濃い隈があるように見えるのはきっと気のせいではないだろう。
「俺らは元気してたが、グラデンは大丈夫か?」
「これが終わったらたらふく飯食って、たらふく寝るから問題ない。いいから行くぞ!ついて来たい奴はついて来ていいぞ!」
グラデンは俺の腕を引っ張りながらそう言って試作場から出た。俺を浮かすほど引っ張らないのを見ると、本当に疲れているのだろう。
ちなみに、後ろをちらっと見ると、どうやら他のみんなもついて来ているようだ。
「それでどんな剣になったんだ?」
「いや、まだ完成してない」
「え…?」
グラデンが試作場までわざわざ俺を呼びに来たからてっきり完成しているものだと思っていた。
「いや、俺がやることだけ見れば完成していると言えるな。あれはゼロスが握って意思を込めることで完成する」
「そうなのか」
まあ、白い鉱石は俺が意思を込めるまで液状のままだからそうだろう。…?グラデンはどうやってその状態で剣を作り終えたんだ?そう疑問に思いながらもグラデンに連れられて鍛治室へと入った。
「持ってくるから待っててくれ」
グラデンはそう言うと、部屋の奥へと入って行った。そして、すぐに布で包まれた2本の剣を持ってきた。
「これが新しいお前の剣だ」
グラデンはそう言いながら剣を包んでいる布を取った。
「…あれ?あんまり変わらない?」
大きさは少し変わっているが、色合い的には全く変わっていないように見える。
「だからまだ完成していないって言ってるだろ。この2つを握ってあの雷を纏って意思を込めろ」
「わかった」
俺は神雷纏をしてから2本の剣を手に取った。
「…意思って固まれ!とかでいいのかな?」
「ゼロスがこの剣に求めていること、誓うことでも込めればいい」
グラデンにそう言われて、俺がこの剣に求めることを真剣に考えた。俺はこの剣で何をしたいんだ?魔物を倒したい?魔族を倒したい?どれもピンと来なかった。
(あっ…)
この時、俺はソフィを振った時のことを思い出してしまった。そうだ。俺はみんなを、大切な人を守りたい。
(大切な人達を守るために俺を支えてくれる剣になれ!)
俺はそんな意思を込めた。剣に大切な人を守って欲しいとは思わない。大切な人達を守りたいのも、守ろうとしているのも俺だ。その俺のサポートをしてほしい。
「うおっ…!」
そういう意思を込めると、剣が白く発光した。あまりの眩しさに目を閉じたが、その発光はすぐに消えた。
「これで剣が完成した!新しいゼロスの武器は闇皓翠と光皓翠だ!」
右手に持っている、真ん中に深緑色の線が入り、その周りは漆黒になっていて、刃の部分は純白の剣の名が闇皓翠。
左手に持っている、真ん中に浅緑色の線が入り、その周りは黄金色になっていて、刃の部分は闇皓翠と同じく純白の剣の名が光皓翠となった。
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