第471話 天使とは
「えっと…その使徒様って奴と天使に何か関係があるの?」
「ご説明します」
聖女は涙を指で拭ってから、再び手を組み直して話し出した。
「まず、天使というのはこの神聖タグリオンでも1部の高位の司祭にしか知られていません。はっきりと天使について話せる者はこの国でも2桁は居ないでしょう」
どうやら、天使について知っている者は極小数のようだ。
「天使は天からの使いという意味です。また、天からの使いのことは私達聖徒は「使徒様」と呼んでいます」
なるほど…。つまり、天使=使徒様という認識でいいのだろうか?
「この世界ができた時にはこの世に降りて来た使徒様は3人いたとされています。そして、1人の使徒様は自然と共に生き、また1人の使徒様は獣と契り、また1人の使徒様は闇へと堕ちましたとされています」
「え…それって…」
「はい。その使徒様達が精霊、獣、悪魔の始祖とされています」
まさか精霊、獣、悪魔の元が天使だとは思わなかった。でも、だからその3種族の中で始祖に最も近いであろう王と契約した俺が精霊化、獣化、悪魔化を行ったから天使の称号を獲得したのか。でもそれならなぜ天使化は手に入らなかったのだろうか?スキルレベルでも足りたなかったのか?
「そもそも天使って何なの?」
「天使とは神々が住まう神界の下にある天界に居るとされている神様の使いです。簡単に一言で言うと、地上に降りることはできないとされている神様の代行者様です」
つまり、天使っていうのは神のパシリってことでいいのだろうか?
「それらはあなたが直接神から聞いたってことですか?」
今まで無言だったソフィが突然そう口を挟んだ。
「いえ。これは代々受け継がれてきた話です」
「つまり、それらは何の確証もない説話ってことになりますね」
確かに神から直接聞いていない以上、今までの話はおとぎ話とほとんど変わらない。だが、神が訂正していないことを考えると、あながち間違ってはいないということだろう。まあ、あの神なら面白がって違う話を訂正しない気もするけど…。
「神に直接聞いたりしないの?」
「人々のために神託を下さるだけでも恐れ多いというのに、私から質問するなど神様の冒涜にも等しい行為です」
「そっか…」
俺と聖女の中で神の認識が違うのだろう。神って言っても、前世で俺を理不尽に殺した上に、会って話した時の態度があんなんだからな…。どうしても敬うって気持ちにはならないよな。
「俺らが神に様を付けずに呼び捨てにしているのはいいの?」
「使徒様はそう呼んでも良いという許可があるのでしょう。それに関して私がでしゃばるような真似はしません」
俺らは普通に神と呼び捨て?で呼んでいるが、許可はとってない気がする。というか、初対面の時から神と呼んでいた気がする。まあ、それを許しているみたいだし、今更神様と呼ぶ気にもならないから別にいいか。
「これ以上詳しく知るためには神に直接話を聞かないといけませんね」
「そうだね」
そうなのだが、神からしばらくは会えないと言われている。だから当分の間は天使についての詳細を聞くことは無理そうだな。
「お兄ちゃん、聞きたいことはもういいですか?」
「うん。もう大丈夫」
聞きたかった天使についてはあらかた聞けたのでとりあえずは満足だ。より詳しい話は次に神と会った時にでも聞こう。
「では、私達はもう行きます」
「分かりました」
ソフィはそう言って残っていたお茶を飲み干すと席を立った。
「急にごめんね。ありがとう」
「いえ。久しぶりに逢えてとても嬉しかったです。いつでもいいので、ご暇ができたり、何か私の手を借りたい時はいつでもお越しください」
「…わかった」
聖女の俺への心酔具合が少し怖い気もするが、悪意はなさそうなのでどうしようもない。
「では、転移します」
「またね」
「使徒様らに祝福があらんことを」
そして、俺達は聖女の前から転移でドワーフ国の城に帰ってきた。
「おっと!」
俺の部屋に戻ると、ソフィがふらっと倒れそうになった。俺は慌ててソフィを倒れないように支えた。
「すみません…。さすがにこの距離の往復は疲れました」
「これくらい全然いいよ。ありがとうね」
ソフィと言えども、この距離の往復はきつかったようだ。転移を乱用しているイムはきつくなった様子はなかったが、どうなっているのだろうか?
「少し休んだら大丈夫になると思います…」
「ゆっくり休んで」
その後はベッドにソフィを寝かした。俺は近くに座っていたのだが、ソフィが1人で人のベッドに横になっているのは悪いからと部屋に帰ろうとしたのを止めてた結果、何故か2人でベッドに横になった。
寝そうになっていたところ、ソフィに連れてかれたのもあってか、俺はすぐに眠ってしまった。
俺が起きた時は朝になっていたが、その時にはベッドにソフィは居なかった。どうやら、俺が眠ってしまった間に自分の部屋に戻ったようだ。
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