第463話 専用

「え?黒焦げになったんじゃないのか?」


鱗は真っ黒になっている。どう見ても俺の魔法で焦げたようにしか見えない。


「いや、ゼロスの雷を受け取って進化したんだ。ほれっ裏を見てみろ」


「うわっ!」


グラデンが裏返したのを見ると、そこも全体的に真っ黒なのは変わらないが、白く綺麗な稲妻模様が入っていた。


「元々ゼロスの雷で変異した鱗ってことで、ゼロスの雷と相性が良かったんだろうよ。これは進化する前に比べて、物理と魔法共に耐性がかなり上がっているぞ!」


グラデンは興奮したようにそう言ってきた。どうやら素材が進化するということはあまりないことのようだ。ちなみに、この進化するというのはどうやら鍛冶師などの物作りを専門とする職人用語的なものらしい。意味としては素材の性能が格段に上がることのようだ。

でも、そんなことを見ただけで分かると言うことは、グラデンは素材の性能が分かる鑑定に近いスキルを持っているのかもしれない。



「なら次は一気に全部の鱗に霹靂神を当てればいいんだな」


「いや、そういう訳にはいかなくなった」


「え?」


てっきり全部の鱗を進化させるために霹靂神を放つのかと思った。


「この進化させた後の素材は恐らく、加工はほぼ不可能に近いだろう。もし、加工ができるとするなら、今の魔法を鱗と俺の槌に注ぎ続けてなければいけない。もちろん、俺の槌が耐えられるわけはない」


「確かに…」


進化する前なら半分で良かった雷の量も、進化したことで半分以上は確実に必要になったそうだ。

それからこの前の実験では、絶縁体のような電気を通さない素材の手袋を付けてグラデンは槌を振っていたからグラデンに雷の被害はなかった。しかし、例え霹靂神の威力の半分の威力だとしても、それは槌を通してグラデンにかなりのダメージを与えてしまう。まあ、その前に半分の威力でも鱗と槌のみを狙うことはできない。鍛治室も吹っ飛ばしてしまうだろう。



「ならどうするんだ?進化する前のやつで防具を作ってくれるのか?」


どんなに強い素材と言えども、加工が出来なかったら宝の持ち腐れだ。ただの頑丈なだけの物体は今回の装備作りということに関しては必要ない。


「あ?ふざけてんのか?俺がそんな妥協をすると思ってんか?舐めんなよ。順番を変えるだけだ。絶対にこの進化した鱗で最高のゼロスの装備を作ってやる」


グラデンは軽く俺を睨みながらそう言った。確かに今の俺の発言は妥協するかと言っているようなものだった。つまり、グラデンでは進化した鱗で装備を作ることは不可能だと、腕を低く見積ったことになる。


「ごめん」


「いいってことよ!」


一言謝ったが、グラデンは全く気にしていない様子だった。


「実験も終わったし、明日から装備作りに取り掛かるぞ。ゼロスの装備と並行して他の装備も作っていくから、1ヶ月程はかかるかもしれないぜ。その間は王城で自由してもいいし、魔物を狩っててもいいぜ!あ、ゼロスは王城に着いたら地下に鱗を置いてってくれ!」


「分かった」


グラデンはそう言って、俺に進化した鱗をひったくりの逆再生をしているようにパパっと渡してきた。そして、馬車へと歩き出した。俺達もグラデンに着いていくように馬車へと向かった。



「装備作りに手伝いはいるか?」


俺は馬車の中でグラデンにそう聞いた。剣作りの時のように何か手伝えることがあるかもしれない。


「いや、いらないな。ゼロスのやつに関しては魔力を流すのも厳禁だ。普通の鱗の方は水魔法を使いたい場面はあるだろうが、それはソフィアやエリーラの方が適任だろう。2人には時短のために手伝ってもらう場面があるだろう」


「分かりました」


「分かったわ」


まあ、確かに水系の魔法に関しては2人の方が使うのは上手いだろう。あと、グラデンは時間と苦労をかければ魔力無しでもリヴァイアサンの鱗を加工できるようだ。まあ、俺達の居ない時も武器や防具を作ってるから当たり前か。


「お兄ちゃんのための進化した鱗が余ったら私の装備に使うことはできますか?」


次にソフィがそう聞いた。まあ、確かに本来なら素材は均等に分配するべきだ。俺だけ進化した鱗を使うのはおかしいかもしれない。


「それは多分無理だ。まだ作ってないからはっきりとは言えないが、進化した鱗を使った装備はゼロス専用になる」


グラデンはそう言いながら右手をみんなに見えやすいように前に出した。


「さっき少し持っていただけでこのザマだ。恐らく、あれの装備が完成した時、その装備は雷を帯びるだろう。つまり、あんな激しい雷に直撃しても全くダメージを受けていないゼロスにしか使いこなせないだろう。少しだけだとしても混ぜたら影響が0ということは無いだろう」


グラデンの手は痺れているのか、プルプルと小刻みに震えていた。不幸中の幸いか、どうやら焦げているとかはないようだ。俺はすぐに回復魔法をかけて治した。


「だが、そんな雷を帯びている装備はゼロスにとっては最高の装備だろう。ゼロスの装備が壊れた理由は何もリヴァイアサンの攻撃だけではない。さっきの魔法の効果も少なからずあっただろう。現に今装備しているのもさっきの魔法だけでかなりダメージを負っている。もし、魔物を狩りに行くとしたら今の装備はやめとけよ。すぐに壊れるぞ」


俺には雷吸引で引き寄せた雷を吸収できるが、装備はそうでは無い。俺が吸収するまでの少しの間とはいえ、雷に当たっているのだ。そりゃあ耐久力が下がって壊れやすくもなるだろう。今来ているローブに関しては自動再生があるから大丈夫なだけなのだろう。

だが、自ら雷を帯びている装備ならどうだ?どんな効果かなのかは完成しないと分からないが、高い雷耐性があるのは確実だろう。つまり、霹靂神を気にせず何発も放てるということだ。もちろん、そんなポンポンと何発も放つことは無いだろうが、雷を自分諸共放つ俺にとってはかなり助かることは確かだ。装備の完成がさらに楽しみになった。


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