第442話 ブチギレ
「私達が戦う場所は荒地にする」
ベクアとキャリナの模擬戦から翌日、シャナがソフィに場所の宣言をした。
「分かりました」
シャナの宣言にソフィはそう答えて、竜車で荒地までまた1時間ほどかけて移動した。
「…本当に荒地だな」
その場所は周りに障害物のようなものもない見通しの良い荒地だった。地面は砂利のようになっているところから、ゴロゴロと大きな石がある場所まで様々だ。
「両者準備は良いですか?」
「ん」
「問題ないです」
俺が結界を張ったのを見た後、ウカクは2人に準備ができたから確認をした。
「試合開始!」
ウカクがそう宣言すると、俺の視界からシャナの姿が消えた。聞いてみると、ベクアとエリーラも俺と同じでシャナのことを見れていないようだ。
「キャリナには見えてる?」
「うん…注意を逸らすと少し見失っちゃうけど…」
どうやら俺達が全く見ることができないシャナのことをキャリナだけは見ることができるようだ。ニャオナによる眼の強化は凄いなっと再確認した。
「そんな茶番に付き合う気はありませんよ。サイクロン」
ソフィも姿が見えていないであろうに、ソフィは冷静だった。ソフィは自分を中心に巨大な竜巻を作り、それをどんどん大きくしていった。
そして、ある程度大きくさせると、再びソフィが話し始めた。
「私がこんなミスをするわけが無いです」
ソフィは竜巻を継続しながら、ある一点に氷の槍を転移させた。
「…ぐふっ」
すると、そこから氷の槍に腰を貫かれたシャナが出て来た。
「知ってる」
槍に貫かれたシャナがそう言うと、その姿は溶けるように黒いドロっとしたものに変わった。これは俺がソフィとの園内戦の決勝の最後でやられたやつと同じだな。
「はっ」
「くっ…!」
それを見てソフィはハッとしたが、遅かった。真後ろからシャナが鎌を振った。それをソフィは何とかメイスで防いだが、シャナにより、接近戦を挑まれる形になった。
「…おい、当たらねーぞ」
「まあ、そうだな」
一見、シャナが有利と思われた接近戦だが、シャナは一撃もソフィに充てることができないでいる。その理由は魔力精密感知でわかった。
「時魔法…」
ソフィはエンチャントに加えて、その魔法も今は常時発動しているのだろう。ソフィから漂う魔力の質的に多分間違っていないと思う。ソフィからかなりの魔力が消費されていくのを感じる。恐らく、自身の時間を早くして攻撃を避けている。これも俺対策の没案と考えると、他に何個あるのか少し怖くなってくる。
「…無理」
シャナは一言そう言うと、ソフィから離れた。もう接近戦はしないようだ。
「インフェルノ」
「インフェルノ」
そして、今度は魔法戦になった。シャナが先に魔法を放ち、ソフィがそれを相殺していく形だ。その応酬もソフィが優位で常に進んだ。
「これも無理」
そして、何度か続けるとこれでは勝ち目がないと判断したのか、シャナはそう言った。
ここまで、ソフィは手札をほとんど見せていない。また、それと同時に今のところ自分よりも弱かったシャナを甘く見てもいない。それはシャナにある技を警戒している証だろう。
「ここからが本番」
キャリナがそう言うと、キャリナの綺麗な青く澄んだ眼がどんどん濁っていき、最終的に紺色まで変化した。
「いくよ」
そう言ってシャナは再び姿を消した。
今のシャナは心眼の応用で眼に意識を集中して、相手の深層心理をまで読み取れるようになる。それにより、今までよりも遥かに相手の先の行動を把握できるそうだ。
それからも接近戦、魔法の応酬は続いたが、お互いに決定打は生まれなかった。ただ、ソフィは明らかにさっきよりはきつくなっていた。
「…その程度の実力で私に勝つと言っていたのですか?」
そして、それが10分ほど続くと、ソフィがそう言った。これまでの10分間でもソフィは相変わらず無傷を保っている。
「私に勝つと言うくらいなので、それなりに強くなっていると思っていましたが、ほとんど何も変わっていませんね」
「ソフィアだって私に致命傷は与えられてないじゃない」
「はあ…」
シャナの言い返しにソフィはため息を着いて、魔法を大量にシャナの周りに転移させた。
「私は何時でもシャイナのことを仕留められました。ただ、私に勝つという根拠を見るために待っていてあげただけですよ。もう30分も無駄に待ちましたよ」
「…さっきから私のこれ以上の手がない前提で話してない?」
「あるのですか?」
シャナの問いにソフィは挑発するようにそう返した。俺はその時、ほぼ無表情のシャナがブチギレる顔を見た。普段怒らなそうな人が怒るとこんなにも怖いんだな。
「違う方法を探してたけど、もういいや。どうなっても知らないよ。煽ったことを後悔しろ」
シャナはそう言うと、眼を見開いて両腕を前に出した。そして、手で何かをかき混ぜるようなジェスチャーをした。
その瞬間、シャナの周りにあるソフィの魔法は消え去った。そして、ソフィはゆっくりこっちを向いて口をパクパクとさせた。
「深層心理ですらも愛しの「お兄ちゃん」のことを考えられなくなった気分は?」
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