第431話 不撓不屈
「シャア!!」
「ぶっ…!」
くそ…また息が漏れてしまった。どうやらリヴァイアサンは速さだけではなく、力も上がっているようだ。やはりこれ以上深く行くのはまずい。
しかし、リヴァイアサンの目的が俺を海深くまで落とすことのようなので、攻撃のほとんどが上から叩き落とすようなものなので、予測はしやすい。
(くっ…)
予測が少し容易になったとはいえ、力と速さが上がったリヴァイアサンの攻撃を防ぐのはきつい。
(あと5分……)
何とか息も漏らさず、致命傷を避けつつ攻撃を防ぎ続けて、残り5分で霹靂神が完成するまできた。だが、そろそろ息もきつくなってきた。
そして、攻撃を防いで気が付いたのが、リヴァイアサンの魔法の威力も上がっていることだ。
ここで重要になってくるのは深くなる事にリヴァイアサンのステータスが全て上がっている可能性がある事だ。もし、そうなら霹靂神を当てたところであまりダメージにならない可能性がある。
(うっ…あと3分!)
しかし、もう俺は霹靂神に頼るしかない状況だ。今更新たな手は思い付かない。
「シャッ!!」
(あっ…)
リヴァイアサンの速さがさらに倍近くになった。決して残り3分を切ったから油断していた訳では無いのに、その速度の突進は剣で防ぐことができなかった。
「ぼばばばっ!!」
何とか噛み付きを全身から右腕に変えるのが精一杯だった。俺の右腕はリヴァイアサンに噛み付かれた。あまりの痛みで息がかなり漏れてしまった。
(があっ!!)
「シャアァァ!!!!」
俺は口の中の右腕に持っている闇翠でリヴァイアサンを突き刺した。
「ぼばばっ!」
リヴァイアサンは口をぶんぶんと勢いよく横に振って俺の腕を噛みちぎろうとしてくる。
(神雷エンチャント!!)
俺は回復エンチャントを神雷エンチャントに変えた。これにより、神雷クアドラプルハーフエンチャントになった。回復エンチャントが無くなったことで全身に痛みが走っているが、今は噛まれているところが1番痛いから気にする余裕は少ない。
「ぼばっ!!」
「シャアァァァァ!??!」
俺は左手に持っている光翠でリヴァイアサンの顔を全力で刺した。
(もう逃がさん!!)
もう霹靂神が完成するまで残り1分ほどだ。それまで俺はリヴァイアサンを離さない。
今離しても俺の右腕はもう使い物にならない。そうなると、もうリヴァイアサンの攻撃を防ぐことは無理だ。
「ぼばばっ……」
リヴァイアサンは頭を横に振りながら急降下し始めた。
「ぼばばっ!!!」
大量の息が盛れた。リヴァイアサンの力がまた増したのだ。つまり、ここはもう深層なのだろう。
だが、俺は力を緩めない。少しでも右腕の力を緩めると、俺の右腕は噛みちぎられるだろう。そして、刺した光翠を持っている左手の力を緩めても、横振りが激しくなり、俺の右腕が噛みちぎられる。
(やっば…)
脳に酸素が足りなくなってきたのか、力が入らなくなり、思考力も落ちてきた。でも、もうあと少しだ。それまでは絶対に力を緩めはしないし、霹靂神の準備も絶対にやめない。
「ぼばっ!!」
ダンッ!という音と背中に走る激しい痛みと共になけなしの息が漏れた。もう俯瞰の目で周りを確認する余裕もなかったから気付かなかったが、どうやら俺は海底に叩き付けられたようだ。
ダンッ!ダンッ!
その後も何度も海底に叩き付けられた。しかし、俺はそれでも手を離さなかった。
「シャア!シャア!!シャアアアァ!!!」
リヴァイアサンが何かに気が付いたのか、口を開いて俺から距離を取ろうとしたが、刺っている剣はそう簡単には抜けない。リヴァイアサンはもう手遅れなのだ。
(霹靂神!)
口の中にある右手で放ったそれはリヴァイアサンにゼロ距離で当たった。鎧のような鱗のない口内で放たれたので、その威力は凄まじく、リヴァイアサンの頭を爆散させた。俺に雷吸収のスキルが無かったら俺も爆散していただろう。
「ぽぱっ……」
途中からはリヴァイアサンを倒すことのみに集中していたせいで、地上に帰ることを忘れていた。
もう俺にそんな余力は無い。頭の中に響くアナウンスを聞きながら俺の意識は薄くなっていった。
(ソフィ…)
そんな俺の頭の中に走馬灯のように浮かんできたのはソフィのことだった。前世でも今世でも俺はソフィを置いて先に死んでしまうのか?それだけは絶対にダメだ。
(く…そ……)
どうにかユグの転移を使おうとしたが、それは無理だった。最後の力を振り絞って試みたので、もう俺の意識はそこで落ちてしまった。
しかし、そんな俺の周りをソフィの魔力が包み込んだ。
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