第400話 告白の返事

「では、移動しましょうか」


「そうだね」


集合場所には、露店の中心地点に近く、開けた分かりやすい場所を選んだ。そのため人間も多い。だから、俺とソフィは人間がほぼ居ないであろう首都の外へ出た。シャナ達が出ていった門とは反対側なので、シャナ達とも出会う必要は無いだろう。



「では、早速私からプレゼントをお渡しします」


ソフィはそう言って、マジックリングからプレゼントを取り出した。


「えっと…これは何?」


ソフィが出してきたのは真っ白の鉱石の塊だった。大きさで言うなら、ボーリングの玉ぐらいだろう。ただ、ゴツゴツしている分それよりも大きいだろう。


「分かりません」


「分からないの!?」


プレゼントしてきたソフィも分からないようだ。


『鑑定』


俺はユグと作った鑑定もどきを使った。偽物が多い露店ではこの魔法は必需品と言ってもいいだろう。まあ、この魔法は魔力を5000も消費する上、鑑定している間は他の魔法が使えないというデメリットがあるため、戦闘では使えない。ものを調べるためだけの魔法だ。



「…俺も分からないな」


そんな鑑定を使っても何の情報もなかった。逆に精霊王のユグの作った鑑定でも分からないこの鉱石は凄いかもしれない。



「これはどのような加工をしようとしても全く変化が無かったそうです」


「まじか…」


だからこそ、ただの綺麗な鉱石としての価値しか見いだせず、安く買えたそうだ。


「これでならお兄ちゃんの予備の剣を作れるかもと思いまして」


「あ、なるほど」


今まで誰も加工できなかったとはいえ、ドワーフの中の凄腕の鍛冶師達が加工に挑戦していないかもしれない。闇翠と光翠を作ってくれたグラデンならこれでも剣を作れるかもしれない。


ちなみに、俺の剣は自動で帰ってくるのに予備が必要かという問題だが、必要になる場合もある。

俺の剣は5m位離れると戻ってくる。逆に言うと、5m離れなければ戻ってこないのだ。だから、剣を取られて、5m離れられない状況になった時に使えるような剣が1本欲しかった。まあ、そんな状況はほとんどないだろうけど。



「はい、どうぞ」


「ありがと…かなり重いね」


俺の想像の3倍くらいは重かった。それこそ、闇翠と光翠を合わせた重さよりも重いだろう。俺の剣は他の剣よりも重くなっているのだが、これは本当に何でできてるんだ?俺は不思議に思いながらもマジックリングの中にその鉱石をしまった。



「それでお兄ちゃんは何をプレゼントしてくれるのですか?」


「ああ、俺からはこれをプレゼントするよ」


俺はマジックリングからソフィへのプレゼントを取り出した。


「これは…指輪ですか?」


「そうだよ」


俺が出したのは何の梱包もされていない、模様もない黒い指輪だ。


「はめられる?」


「かなり大きそうですが……あ、ぴったりになりました」


「わおう」


ソフィの指よりも明らかに太かったそれはソフィの左手の中指に収まると、自動的にぴったりのサイズに変更した。


「これは何ですか?」


「呪われた指輪」


「えっ!?」


久しぶりにソフィが目を見開いて驚く表情が見れた。その表情を見れただけでもプレゼントをした甲斐があったな。


「ソフィ、鑑定はまだしないでね。その指輪を外して俺の指に嵌めてみて」


「は、はい」


ソフィは自分の指から指輪を外して俺の出した左手の薬指に指輪を嵌めようとした。


「……あれ?」


「嵌らないでしょ?これはMPが10000以上の人しか嵌められない指輪なんだよ。今まで誰も嵌められ無かっただろうから、呪いの指輪として売ってたよ」


ぶっちゃけ、ソフィもまだ嵌められないだろうと思っていた。しかし、将来的にMPが10000を越えるだろうソフィにはいいものだろうと思ってプレゼントしたのだ。



「その指輪の効果は、1度だけHPが0になる攻撃を無効化できる。条件が厳しい分、効果もいいよね」


これは露店の中でも裏路地の方で見つけた代物だ。一生懸命に探す間に気が付いたら裏路地に居てびっくりした。まあ、それが結果的に功を奏したわけだ。

HPが0になる攻撃しか防いでくれないのは難点だが、1度だけ死を回避できると考えればかなり良いものだろう。1度防いだらこの指輪は砕け散ってしまうけど。



「ありがとうございます。嵌めてくれますか?」


「ああ」


俺は差し出されたソフィの左手の中指にその指輪を嵌めた。


「…中指なのですね」


ソフィはボソッと悲しそうにそう言った。




「ソフィ。告白の返事をしようと思う」


「!」


あまり待たせることは良くないだろうし、自分の中でも答えは見つかったつもりだ。2人っきりの今、言うべきだろう。


「俺はソフィのことを異性として見ることができる」


「っ!じゃあ!」


ソフィが前世の妹と言うのは分かっているし、今世でも双子の妹だ。だけど、育った環境が前世と違うからか、ソフィのことを異性として見れる。妹だからという理性の壁をしていたが、それを外してみるとソフィは魅力的な女性として写る。このまま見ていればソフィを好きになるのは時間の問題だろう。



「だけど、俺はソフィと付き合ったり、そういう関係になったりはしたくない」


「………何でですか?」


ソフィは目のハイライトを消しながら理由を聞いてきた。


「もしソフィとそうなったら、みんなが危ない事態になった時にソフィを優先しようとしてしまう」


「…それの何がいけないんですか?」


「俺はシャナ、ベクア、エリーラ、キャリナ。…みんなを守りたい。みんなに死んでほしくない。今はそのために強くなりたいと思ってると言ってもいい。だから、ソフィを優先したせいで守れなかった、なんてことになりたくない」


今は俺が仲良くしているみんなが大切だ。それこそ、前世からの妹のソフィと変わらないくらいに。

もし、ソフィを優先して守ってしまったせいで救えるはずのみんなが救えなかったら、俺は絶対に「ソフィと付き合わなければ…」と後悔してしまう。もちろん、みんなを救おうとしても救えなかったかもしれない。でも、ソフィを優先してしまったからという言い訳を作りたくない。

そうしないためにソフィとは…いや、誰とも付き合うわけにはいかない。



「…なら!お兄ちゃんか私かが最強になった時は付き合ってくれるんですか!?」


「最強にはなれるかもしれない。でも、それは無敵になったわけではないよ」


「………」


どんなに強くなっても必ず敵は存在する。最強になれた俺自身は狙われても問題は無い。

しかし、その時に敵に狙われるのは俺だけとは限らない。そんな時に最も強くても絶対に守れる保証はどこにもない。



「それなら、お兄ちゃんと面識のある人間が全員死ねば、お兄ちゃんは私と付き合ってくれるよね?」


「それが可能かどうかソフィなら分かるよね」


「……」


そんな屁理屈が通らないくらい、ソフィでなくても誰でもわかるだろう。


「…分かったよ。今はその返事で納得する。

なら、私はお兄ちゃんを守りながら最強で無敵になってやる。その時にもう一度だけ返事を聞くから。その時の返事は「はい」しか受け付けない」


「………」


ソフィはそう言うと、俺に背を向けて歩いて首都から離れて歩き出した。



「ごめん、今は1人にして。明日までには戻るから。……指輪ありがとう。壊れないようにするよ」


ソフィはそう言い残して転移した。


「これでいい。これで……」


ソフィを傷つけてしまった。でも、この選択に後悔はしてない。だからこれでいいはずだ……


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