第396話 2対1

「転移」


「ちっ」


俺が魔法を捨てたと判断すると、ソフィは転移で俺から離れた。いつもは近付いて来るくせに、模擬戦になると近付こうとしてこないんだよな…。

よし、ポジティブに考えよう。クールタイムがあるため、この模擬戦では1回しか使えないだろう転移を早めに使わせたと考えることにしよう。



「よしっ!」


俺は意気込んでから、埋め尽くされた槍の中へと走って行った。



「らあっ!!」


よく考えれば、ソフィは魔法を転移させれるので、槍の中だろうと、外だろうとあまり関係はなかったな。俺は向かってくる槍を神速反射と危機高速感知に頼りながら全て斬り消していった。時々サイコキネシスで足場を作ることによって、アクロバティックな動きもしているので、掠ることはあっても槍に刺さることは無い。



「多いな!!」


斬っても斬っても切りがない。これは魔力切れは期待しない方がいいだろうな。

だが、少しずつソフィに近付くことができている。まあ、それはソフィも分かっているので、俺から離れているから意味無いのだけど。



「あっ」


そこで俺は最近はほとんどしていないあることが、今は有効ではないか?ということに気付いた。

俺は足場を作って空高く飛び上がって、エンチャントと精霊化と悪魔化と悪魔憑きを解除した。


「ユグ!やれ!」


「分かったよ!」


そして、ユグに俺の魔力を全て渡して、俺の中から出した。


「流星群!!」


ユグは直径10mはあろうかという岩を十数個落とした。


「ゼロくん、魔力切れた。ちょうだい!」


「え!?全部上げたんだけど!?」


俺の渡した6734という数値の魔力を今の一撃でほとんど使ってしまったそうだ。


「どれくらい欲しい?」


「燃費悪いから、確実に勝つには10万は欲しいかな?」


「ソフィが待ってくれたらな」


俺はサイコキネシスの足場に立って、浮かんでいるユグの手を掴んで魔力を渡した。俺は精霊使いのおかげで精霊界から魔力を持って来れるからいいが、普通なら精霊王であるユグを使えないだろう。

ユグは全ての属性の精霊魔法を使える代わりに、ジールのように専門の属性を持つ精霊と比べて、同じ威力の魔法でも倍近くの魔力が必要になるらしい。


ちなみに、最近はユグやジールを出すことがなかったのは、多重思考があるからだ。多重思考を駆使すれば、俺の中に居たまま、俺がユグやジールの精霊魔法を使うこともできる。また、その場合だと、魔力を精霊界から持ってきながらできるので、魔力切れの心配もない。



「おっと」


「わっ」


精霊界から持ってきた魔力を5万くらい渡したかな?ってくらいでソフィの魔法が転移してきた。ユグの腕を引っ張って避けた。もう時間切れのようだ。

それから、一応さっきの魔法で倒れてくれないかな?って思っていたけど、それもないようだ。



「ジール精霊化、悪魔化、悪魔憑き。神雷エンチャント+ハーフ、回復ダブルエンチャント、雷電エンチャント」


ユグに魔力を渡すのに専念するために外したエンチャントなどをもう一度やった。


「ユグは何をすればいい?」


「最低でも槍が増えないようにして欲しい」


ユグにはソフィが俺から逃げないための妨害を頼みたい。槍を減らせれば近付けるようになるし、負け無い…と思う。



「最低でそれなら、何をすれば最高なの?」


「ソフィの注意を俺以上に引いてくれれば最高」


ソフィが俺よりもユグの方を警戒してくれれば、その分俺は自由に動きやすくなる。


「ならユグは最高を目指そうかな!」


ユグはそう言って下に急速に落下して行った。俺もユグについて行くように落ちた。


「引!」


ユグは落ちながら、引力でソフィを引き寄せた。


「反射」


「反射返し」


その最中でソフィはユグに反射を使った。しかし、ユグはそれを跳ね返した。


「ユグにも普通の魔法は効かないって分かってるなら、ダメージを与えるために反射を使うよね」


「くっ…」


ソフィは自分の反射を跳ね返されて、地面に叩き付けられた。この模擬戦で初めてのまともなダメージだ。あれ?俺いらない?

ちなみに、ユグやジールは精霊なので、俺の精霊化と同じ状態だ。だから、魔力に余裕があれば普通の魔法や物理攻撃は効かない。



「はあ…くそ…」


未だに空中にある槍は俺に向かってきていて、ユグには1本も向かっていない。ユグの攻撃に食らうとしても、俺を近付けたくないようだ。


「槍!」


ユグは周りにある木や土や岩を変形させて槍を作って放った。


「魔法解除は知ってるからねっ」


ソフィのスキルの魔法解除は魔法をなんでも解除してしまう。だから、ユグが魔法ではなく、周りにある自然を操ったのだ。


「インフェルノ」


しかし、ソフィは岩すらも溶けるほどの温度で燃やした。

その後もユグとソフィの魔法での攻防は続いた。

俺に意識を向けなければならないソフィ、魔力が限られている燃費の悪いユグ。一見すると、2人は互角のように見えた。しかし、終わりは20分も経たずにやって来ようとしていた。



「やばい!魔力無くなってきた」


ユグの魔力がなくなってきたのだ。それは俺が魔力高速感知でも分かるので、ソフィも分かっているだろう。

ソフィ相手に魔力切れで負けそうになっているのは、元々、目標の半分しか魔力を渡せなかったからというのもあるだろう。しかし、俺やユグの想定よりもソフィは魔法を使うのが上手かったのだ。魔力を温存気味とはいえ、仮にも精霊王であるユグとまともに戦えていたのだ。



「でも、最低限の仕事はしたからね。じゃあチェンジ」


ユグが最後にそう言うと、俺とユグの場所が変わった。ユグの最後の魔法のおかげで俺はソフィに少し近付くことができた。

そして、ユグは俺の中に戻ってきた。精霊というのは、どこからでもピャッと契約主の中へ戻れるらしい。まあ、これは悪魔でも獣でもできるらしい。



『はい。これお土産。ユグがしたのは最低限の仕事だけじゃないからね。それじゃあ、ユグはお土産に専念するから、勝ってね』


『ありがとう!任せろ!』


俺の中に戻ってきたユグはあるお土産を用意してくれていた。俺はそれに感謝しながらソフィに向かった。


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