第385話 先客
「お待ちしておりました。こちらに横になってください」
「ああ」
俺は聖女の居た医務室のようなところでベッドに横になった。
「…想定していたよりもゼロス様の自然治癒が進んでいるので、今日で完全に回復することができると思います」
「なら良かった」
どうやら、今日の治療で俺は完全復活できるようだ。
「ちなみに、今ってどこを治しているの?」
昨日は身体の調子は絶好調とは言えなかったが、どこか痛い部分とかは特になかった。
「全身です」
「あ、そうなんだ」
少し驚いてしまったが、今治しているのは全身らしい。昨日の治療でも全身を同時に治していたそうだ。本来ならより重症のところを重点的に治すらしいが、全身が重症だったので、同時に全身を治してくれていたそうだ。
「これで終わりました」
「ありがとう」
治療は2時間ほどで終わった。ベッドに座って右腕をぐるぐると回してみると、何となく治療前よりもスムーズに動いている気がする。
「これで治療は終わりましたが、だからってまた身体の限界を超えるまで動くことは無いようにしてください」
「分かったよ」
俺はそう答えると、医務室のようなここから出て行った。
「えっと…ベクアを知りませんか?」
「ベクア様は闘技場にお行きになりました」
「あ、そっか」
ベクア達王族は闘技場で試合の結果を発表を行いに行ったそうだ。少し探した時にソフィ達も見当たらなかったことから、闘技場で警備をしているのだろうか?
「……訓練場にでも行くか」
俺は暇だったので、1人で訓練場に行くことにした。俺も闘技場に行ってその発表を見てもいいのだが、1人で行ったと知られたら、危機感が足りないとソフィ達に怒られそうだ。だから怒られないであろう王城内の訓練場で1人寂しく体を動かすとしよう。
「あれ?」
俺が訓練場に行くと、そこには1人の人影があった。どうやら先客が居たようだ。
「ん?確か…ゼロス君だったな。別に予約とかがある訳では無いから、一緒に使っても構わないぞ」
先客が居たから帰ろうかとも思ったが、俺も使っても良いそうだ。
「え!護衛最強?」
「なんだその名は。ああ…ベクア様が仰ったのか」
その居た獣人をよく観察すると、それはあの国王様の護衛の中で最強とベクアが言っていた獣人のウカクだった。
「ベクア様から聞いていると思うが、自己紹介をしておこう。俺は国王様の護衛の一人のウカクだ」
「初めまして?人間のゼロスです」
会うのは初めましてでは無いが、実際に言葉を交わすのは初めてなので、初めましてでいいよね?
「えっと…闘技場に行かなくてよかったのですか?」
「俺は魔族が大会に参加していると分かってからずっと連勤だったんだ。そして、今日やっと休みを貰えたのだ。今日は外で、かつ王族も多く居るということで必要以上に護衛を付けても問題ない。だから、俺がこうして訓練場で身体を動かしても大丈夫なわけだ。
ちなみに、俺はただの護衛で、偉い訳では無いから敬語で無くても構わないぞ」
「…大変だったんだ」
「ああ…そうなんだ。大変だったんだよ…」
魔族が大会に参加するとベクアから聞いてから優に1ヶ月以上は経っているだろう。つまり、ウカクは1ヶ月ほどの間休みを貰えていなかったらしい。それで、やっと貰った休みをこうして堪能?しているそうだ。
「怪我が酷かったそうだが、完全に治ったのか?」
「治ったよ」
「それは良かった」
今までウカクは無言で厳格そうだったのが、それは仕事中だったからで、オフになったらこうしてフレンドリーに話すタイプのようだ。
「少しストレッチに付き合ってくれないか?」
「良いですよ」
ウカクが体を伸ばしていたので、押して手伝った。また、俺も体を押してもらったりもした。
「ふぅ、ありがとうな」
「こっちこそありがとう」
2人で30分ほどストレッチをしていた。1人でやるよりもかなり丁寧に身体を伸ばすことができてよかった。
「なあ、今から模擬戦をやらないか?」
「え!?いいの?」
ストレッチが終わると、ウカクからそんな提案がされた。ベクアは、ウカクは負けてはいけないから大会に参加していなかったと言っていたが、いいのだろうか?
「別に今は誰も見てないから、俺が誰に負けようが問題ないだろう」
「あ、そっか」
俺の考えが顔に出てたのか、ウカクは俺の疑問に答えてくれた。
「あ、でもゼロス君は病み上がりだったな。だからお互いに獣鎧と魔法は無しで、獣化のみでやろうか」
「分かった」
ん?お互いに獣鎧と魔法は無し?つまり、ウカクは魔法も使えるということなのか?
「よし、じゃあやるか」
「あ、はい!」
こうして、急に国王の護衛最強のウカクと模擬戦をすることになった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます