第374話 試合は終わり…

「はあ…!はあ…!」


『これは本気でおかしいぞ』


『ああ…』


リュウは次第に苦しそうに顔を歪めながら攻撃をし始めた。


「くっ…!」


だんだんとより野性的な動きになっているのに、俺は徐々に押されてきている。力が増しているのだろう。



「え…?」


一旦情報を整理するために距離を取った瞬間にリュウの姿が見えなくなった。



「っ…!」


「……!」


危機高速感知のけたたましい音で反射的に首を傾げると、次の瞬間にはそこにリュウの腕が通り過ぎた。

俺の反射神経を持ってしても掠ってしまったのか、頬から血がたらーっと垂れた。


「っ!」


リュウは俺の顔の横に腕がある状態でハッと!したような表情になった。その顔もすぐに元の苦しそうな顔に戻った。


「…ここまでだな」


リュウはそう言うと、俺の顔の横から腕を戻して、両拳を舞台に勢いよく叩き付けた。


「ごほっ!ごほ!煙たい…」


あまりの勢いに舞台は砕け散った。もう元の足場などは残っていない。さらに、砕けたことでかなりの砂煙が立ち込めている。


「イム!早く私達を連れ出せ!」


「イム!?」


リュウが突如イムと言ったことに驚いた。しかし、連れ出せとはどういうことだ?そして、これは念話のようなスキルを使っているのか?


「何だと!いいから早くしろ!魔族の衝動が抑えられなくなる…!」


「え!」


魔族の衝動…。それは殺人衝動と破壊衝動のことだろう。それが抑えられなくなるということは…。


「はっ!」


俺はすぐにリュウにスキルを返した。もしかすると、俺がその衝動を抑えているスキルを奪ってしまっていたのかもしれない。

俺がスキルを返した後もリュウは空中に向けて話していた。



「すまんな」


リュウはイムとの話が終わったのか、俺の方を向いて血走った鋭い目でそう言った。


「もう抑えるのが限界だから手短に言うぞ。イムが他の魔族から撤収させていく。私の番が来るまでの間、私の相手をしてくれ。もうこれは試合では無い。殺し合いだ。だから魔法も何でもありだ。私をお前だけに釘付けにしておいてくれ。他にも敵がいるとなったら、私は竜を呼び寄せてしまうかもしれない」


「え!?」


俺が返したスキルは関係なかったのか、もう遅かったのかは分からないが、もう衝動を抑えるのは限界らしい。

そんなことよりも、今はリュウの言っていることの方が大変だ。魔族にはその元になった種族を操る力があるが、竜はまずい。あの前にリンガリア王国の王都を襲ったドラゴンとは比較にならないほどに強い。ランクで言うとどんなに弱い個体でもSS-ランクはあるほどだ。そんなのがここに来たら…いや、ここに向かってくる最中だけでもどれほどの数の人間が殺されてしまうか想像もできない。



「私にできるのはお前に集中しようとすることだけだ。頼りっきりになってしまうのは本当にすまない。では、頼むぞ」


リュウは最後にそう早口で言うと、頭をガクッと落とした。そして、もうすぐに頭を上げ直すと、そこにはもう苦しそうな顔はなく、無表情の顔だった。


「があぁぁぁぁ!!!!」


「うっ…」


思わず剣を手放して耳を塞ぎたくなるほどの大音量の咆哮を上に向いて放った。あまりの勢いに、俺らを隠していた周りの砂煙は無くなった。

そして、その咆哮を放っている間にリュウの姿が変えていった。



「やばいかも…」


リュウの手と足は完全に竜の手足のようになった。さらに、腰より少し下あたりに尻尾、背には翼、頭の横には2本の角が生えた。さらに、全身の鱗の色も赤黒くなった。

それと同時にほとんど感じなかった膨大な魔力を感じるようになった。



「待て待て待て…」


変化し終わったリュウは俺の方へゆっくり手を向けた。そして、3mほどもある白い炎の玉を放ってきた。あと、お前の鱗の色は黒なのに放つ炎の色は初対面の時と同じく白なのかよ



「最初に魔法かよ!」


俺はその炎を魔力斬りで斬り消した。すると、消した炎の後ろからリュウが姿を現した。



「残念!見えてんだよ!」


俺の俯瞰の目では炎の影に隠れていたリュウは目視済みだ。そんな現れたリュウを俺は剣で斬りつけた。


「ほあ!?」


全力で斬りつけた攻撃をリュウは全くガードしなかった。それなのに、全くダメージを負っていない。何食わぬ顔で食らっていた。


『俺を使え!』


「ジール精霊化!」


攻撃が全く効いてないことに放心している間に、リュウが攻撃をしようとしていた。掠るだけでもヤバそうなので、精霊化で通り抜けた。


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