第359話 本戦2試合目 2
「らあぁぁっ!」
ドンッ!
「だぁあ!」
ドンッ!
「…キャリナはあんなふうになったらダメだぞ」
「……なりなくてもなれないですよ」
今、俺とキャリナはベクアとロールの試合を見ている。ベクアとロールはお互いに近付いて、殴り合っている。ベクアは素手で、ロールは棍棒を使っている。
「らあっ!」
「がぁっ!」
「…ゼロスさんはあのように戦えますか?」
「できるとは思うけど、しようとは思わないね」
さっきから観客スペースにいる俺にまでベクアとロールの声が聞こえてくる。
ベクアとロールはほとんどガードをしないで攻撃に集中している。
「本当なら、再生能力があるトロールの魔族であろうロール方が、こんなほぼノーガードのインファイトが有利なはずなんだけど…」
ロールという魔族は、名前と姿から推測するに、トロールという魔物が元になった魔族だろう。トロールという魔物の特徴は高い攻撃力と防御力と再生能力だ。
トロールの再生能力は体力などを使う代わりに魔力は消費されないらしい。その再生速度は少しの傷くらいならものの数十秒で治ってしまうほど早い。それが魔族になっているので、再生能力はさらに高くなっていると思う。
「がふっ…!がはっ!」
しかし、ベクアの猛攻により、何度も再生を繰り返しているので、再生速度はかなり落ちてきている。だんだんロールの動きも鈍くなってきているので、攻撃数も少なくなってきた。そして、少しずつただ殴られるだけになってきた。
「ふ…ふんっ!」
「らあっ!」
「ぐふっ…!」
また、ロールの攻撃ではベクアの氷雪鎧を砕いてベクアにダメージを与えることができていない。遠目から見ているだけなので、ヒビくらいは入っているかもしれない。しかし、それを砕く前に鎧が元に戻っている。
「おっら!!!」
「がひゅ……」
ベクアがロールの腹を肘で殴ったのを最後にロールは前のめりに倒れた。
『試合終了!勝者ベクア!』
ロールは倒れてからぴくりとも動かなくなったので、ベクアの勝利が決まった。そして、ロールは大きな担架で運ばれて行った。
「おい!ゼロス!次に勝つのは俺だからな!」
「あいつ…」
ベクアはすぐには退場しないで、舞台の上から観客スペースにいる俺に拳を向けて大声でそう宣言した。
「ゼロスさん、返事をしなくていいのですか?」
「するよ…」
そんな目立つことをしないでくれ…っと思ってしまう。今は観客の目が俺の方に集中している。これは俺からベクアへのアンサーを楽しみにしているのだろう。これでベクアを無視したら、ベクアだけではなく、観客からも怒られそうだ。魔族がいると知らない一般の獣人からすると、この大会は年に1回の祭りなんだ。少しくらいサービスしても問題ないよね。
「何言ってんだベクア!勝つのは俺に決まってるだろ!」
俺は光翠を抜いて、剣先をベクアの方へ向けて宣言し返した。
「はあ…」
観客が大盛り上がりの中、俺は席に座ってため息を吐いた。ベクアは王子だから市民である観客を楽しませるのは義務でもあるのかもしれないが、俺を巻き込まないでくれよ。
「…そういえば、この試合は魔族達が観戦してたな。負けるかもしれない試合になると見に来るのか?」
「どうなんでしょう?」
俺はさっきまでリュウ達魔族4人がいた後ろの方の場所を見ながらそう言った。
ちなみにさっきあった俺の試合でも魔族達は観戦に来ていたそうだ。ちなみに、俺に今日負けたメラも試合を見るためなのか、この試合の途中から観客スペースに来ていた。
「それは次の次の試合で分かるかもな」
次の次の試合はデュラという魔族が出場する。デュラの次の相手は国王の護衛なのだが、デュラは多分負けないだろう。だからその試合を見に来ないようなら、俺の推測が当たっている可能性は高くなるだろう。
「ゼロス!」
「お前な…」
少しこの場に留まっていると、満面の笑みで嬉しそうにベクアがやってきた。
「これで俺とゼロスは仲がいいから八百長をするって疑惑は少なくなっただろう」
「そんなことまで考えていたのか?」
確かに言われてみれば、俺とベクアが仲が良いのを知っている者は沢山いるだろう。だから八百長疑惑があってもおかしくない。
「1割くらいは考えてたぞ。ちなみに残り9割は面白そうだからだ!」
「ベクアらしくて安心した」
打算的な気持ちは少ししか無かったそうだ。10割が打算で行動していたら本当にこいつはベクアなのか少し疑うところだった。
「じゃあ、飯を食いに行くか」
「そうだな」
「はい」
俺達3人は昼食を食べに向かった。店は前と同じにした。そして、昼食から帰ってきて午後からの3試合目、4試合目を全て見た。
「…居なかったな」
「そうだな」
午後からの試合は魔族が観戦に来ることは無かった。ちなみに、デュラは蹴り1発で相手を場外まで吹っ飛ばして勝利していた。
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