第357話 本戦1試合目 3

「お前は防具とか武器は使わないのかよ」


俺はリュウを見てそう呟いた。他の魔族は皮などの最低限の防具を装備しているのに、リュウは普通の軽装で、武器も何も持っていない。



『試合開始!』


リュウとルドイの試合が始まった。ルドイはゴリラ?の獣化をして、火の獣鎧もしている。ルドイは獣化をしてからがたいが倍以上になった。これはかなり攻撃力が強いだろう。


しかし、試合が始まっても数分間も睨み合いが続いていた。



「はぁ…はぁ…はぁ……」


「………」


睨み合っているだけなのに、ルドイは観客スペースから見ても分かるほど息を荒くしていた。試合が進まないことに野次を飛ばす人も少しずつ現れてきた。



「ぁ、あぁぁぁぁぁ!!!!!」


ルドイはやけになったように叫びながらリュウに向かっていった。大振りのただ振り回すように振られている拳はリュウに当たることはなかった。数度空振ると、リュウが腹を蹴ってルドイは場外まで飛ばされた。


『勝者リュウ!』



「…ゼロスはリュウと戦ったことがあるんだったよな?どうしてあーなったか分かるか?」


「ああ」


俺もリュウと戦った時に似たようになった。リュウに睨まれただけでそのプレッシャーによって体が動かなくなったのだ。あの時はそのプレッシャーを少し弱めてくれたのと、気絶しているソフィを守らなければという強い意志によって何とか動くことができていた。



「それは何かのスキルなのか?」


「そこまでは俺にもわからない」


ベクアとキャリナに俺が体験したことを説明すると、ベクアは俺にそう聞いてきた。

しかし、直接体験した俺からしてもあれがスキルなのかどうかすらも分からない。あの時にわかったことと言ったら、絶望的なほどの実力差くらいだ。



「戦えるのか?」


「戦えなければこの大会に参加した意味が無い」


あれから俺はかなり強くなった。今度はもうあのプレッシャーなんかに負けない。


リュウの強さを再認識していると、次の試合が始まった。俺達3人はその試合を誰一人話さずに見ていた。




「おい、キャリナ。そろそろ控え室に移動しろよ」


「あっ、はい…!」


キャリナはベクアにそう言われてハッとしたように立ち上がった。


「…キャリナ、リュウの話ばっかりしてて悪かったな。リュウのことは一旦忘れていいよ。今はこの試合だけに集中していいから」


俺はキャリナにそう言った。俺やベクアよりも早く対戦する可能性があるリュウの話でプレッシャーをかけるようなことをしてしまった。だが、キャリナはリュウと対戦する前に2人倒さなければならない。キャリナには今はそっちに集中してもらいたい。

キャリナは自分の頬をパンッパンッ!と2回叩いた。



「ゼロスさん、ありがとうございます!もう大丈夫です。行ってきます」


「行ってらっしゃい」


キャリナは不安そうな顔を可愛らしい自身みなぎる笑顔に変えて控え室に向かっていった。




『本戦4日目の4試合目を開始します!選手は入場してください』


控え室にキャリナが向かってから数十分後にキャリナが入場してきた。

相手は獣化を行い、キャリナは獣化と獣鎧で闇を纏った。



『試合開始!』


試合が始まると、キャリナと相手はお互いに真っ直ぐ向かいだした。キャリナは相手が振ったハンマーを爪で受け流してヒットアンドアウェイで攻め続けた。



「なあ、ベクア…あれって…」


「ああ。ゼロスのだな。まだゼロス程では無いが、奪われかけているな」


キャリナのハンマーの受け流し方がどこか既視感があった。その理由が分かったのだ。あれは俺の攻撃の受け流し方にそっくりだったのだ。もちろん、爪と剣とでの違いはあるが、受け流す時のタイミングやその後の動きからまで俺に似ている気がする。まあ、自分で言うのもあれだが、まだまだ俺の方が受け流すのは上手い自信がある。

もしかすると、キャリナの借奪眼の能力はただ、眼に見える魔法などのスキルを一時期借りるだけに留まらないのかもしれない。



「キャリナに言った方がいいかな?」


「本人が気付くまで放っておいていいだろ。言うとしても大会が終わってからだろ」


変に気にして戦い方が変わるよりも、無意識だが何とか使いこなせている今の方がいいだろうとのことだった。これには俺も賛成だったので、大会が終わるまでは黙っておくことにした。



『試合終了!勝者キャリナ!』


相手がキャリナからの攻撃を受け続けて、勝ち目が無いと判断したのかギブアップした。



『これにて本戦4日目を終了します』


これで俺とベクアとキャリナの3人は2試合目まで進むことができた。


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