第347話 ベクアの初戦
「じゃあ行ってくるわ」
「頑張れよ」
「頑張ってください」
「おう!」
俺とキャリナは闘技場の選手控え室に向かうベクアを見送った。
「キャリナ、ベクアの試合を見に行こうか」
「はい」
キャリナとそう話して、2人でガラス張りになっているお偉いさん専用の試合観戦室へ向かった。そこは普通の観客席のさらに上の方に作られている。
予選では参加人数が多過ぎるので、選手が試合を見るようの席は用意されていないそうだ。人数が少なくなった本戦では、選手が試合を見るための席は用意してあるらしい。
だから予選の観戦はできないなっと思っていたら、ベクアがお偉いさん専用の試合観戦室の1つを使えと言ってきた。別に今日の試合の出場者に俺とキャリナが予選で当たる相手はいないから別に見てもいいだろうとのことだった。
「かなり丈夫そうなガラスだな」
「壊れたらまずいですからね」
このガラスはかなり頑丈に作られているそうだ。さすがお偉いさん専用といったところだ。ちなみに、外からはこの部屋の様子は見えないようになっているそうだ。
「お、ベクアが出てきた」
特に何のアナウンスも無く、ベクアが登場した。人数が多いため、予選ではアナウンスも最小限になっているらしい。
「「「わあぁーーー!!!!」」」
「歓声が凄いな」
「兄様は優勝候補でもあり、次期国王候補でもありますからね」
今回の大会に魔族が出場しているのを知らない市民からすると、王族の中で最強と言われているベクアが優勝候補になってくるのか。
「兄様のオッズは1番低いですからね」
この大会は大会参加者以外は賭けができるそうだ。賭けの対象は本戦からになるそうだ。本戦からは1試合ごとに賭けることができたりするそうで、かなりの額が動く場合もあるらしい。ちなみに、優勝を当てる単勝や、1位、2位、3位を当てる三連単とかもあるそうだ。
「ゼロスさんは負けられませんよね」
「そうなんだよ……」
ソフィとシャナは俺の単勝に金貨10枚ずつ賭けていた。金貨10枚は日本円にすると、1000万円ぐらいになる。別に本戦が始まるまではまだ賭けが可能な期間なのだから、予選の1日目から賭けなくてもいいのに…。そして、2人がこれだけ賭けてもまだオッズが1番低いベクアには一体いくら賭けられているのだろうか…。
「おっ!獣化したな」
まだ試合が始まっていないが、ベクアと対戦相手は獣化を行った。この大会では、始まる前から獣化しても良いということになっているそうだ。さすが獣人の大会だ。
『始め!』
そのアナウンスがかかると、サイ?のような獣の姿に獣化した者がベクアに突進した。ベクアはそのサイを正面からぶん殴って場外まで吹っ飛ばした。闘技場の舞台は大きめに作られていて、半径30m程あり、そこから10m弱が場外になっている。つまり、ベクアは2m以上のサイに獣化した相手を30m以上も殴り飛ばしたのだ。
『試合終了!』
「「「わぁー!!!」」」
「早かったな」
最近学んだのは、獣人の獣化では、完全な獣の姿になるのは未熟者ということだ。本当に使いこなせると、獣のパワーと獣人の身軽さと器用さをいいとこ取りするために、ちょうど両者の中間のような姿になるそうだ。
まさに今のベクアがそれだ。全身にホッキョクグマのような白い毛がを生え、腕や足は熊のものになっている。しかし、口に鋭い牙が生えているだけで、顔は人の状態だ。獣化ができる者は意外と居るらしいが、この状態になれる者は少ないそうだ。
ちなみに前に俺が戦った護衛はできていた。
「ベクアなら獣化しなくても勝てそうだよな…」
実際に、去年の大会では獣化できなくても、獣状態の獣化程度なら、持ち前の戦闘技術と氷鎧でボコれていたそうだ。ちなみに属性の鎧を使える者は獣化ができる者よりも遥かに少ないそうだ。
「じゃあベクアのところに行くか」
「そうですね!」
試合も終わったので、ベクアの所へ向かった。
「おつかれ」
「お疲れ様です!」
「おう!いい運動になった!」
ベクアが爽やかな笑顔と共に出てきた。
「ソフィア達の元へ行くか?」
「うーん…」
ソフィ達が俺と珍しく別行動している理由は、本戦での警備のための会議で王城に居るからだ。別に俺も王城に行ってもいいのだが、そこには勇者と聖女もいるそうだ。そいつらに会いたいとは思えない。
「じゃあ、ちょっと付き合えよ」
「どこ行くんだ?」
「軽く魔物を狩るだけだ」
俺とベクアとキャリナの3人は大会に全く影響が出ない程度に魔物を狩って時間を潰した。明日はキャリナの試合があるので、夕方になる前には解散して宿に戻った。
試合が終わったのに、王城に寄らなかったことを宿に先に戻っていたソフィとキャリナに軽く怒られてしまった。
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