第345話 大会の日程

「獣化!」


「…」



「お待たせ」


「待たせたな!」


「お兄ちゃん、お疲れ様です」


俺とベクアが訓練場に着くと、ちょうどキャリナとシャナが模擬戦を始めたところだった。


「キャリナもだいぶ獣化できるようになってきたね」


「そうだな」


キャリナの獣化は肘からの先と膝からの先が猫の手足のようになるような感じだ。本当はもっと全身を獣化したいらしいが、今はこれが限界らしい。キャリナは獣化しても尻尾はまだ1本しか生えていない。


「はっ!」


「……」


獣化中のキャリナの攻撃手段はベクアと同じ殴る蹴るに加えて、手や足に付いている鋭い爪での引っ掻き攻撃だ。爪は鞘に入った状態とはいえ、俺の闇翠や光翠とぶつけ合っても傷が付かない程の硬度だ。



「…これで終わり」


「…参りました」


模擬戦はシャナの勝利で終わった。


「まだちょっと難しいか…」


キャリナはまだ猫の手足を使いこなせていない。咄嗟に動くと、普通の手足と同じように動いてしまう。その結果、思っていたよりも動きすぎてしまうのか、隙が現れてしまう。



「キャリナ!勝手に俺がお前も大会にエントリーしておいたぞ」


「え!?」


模擬戦が終わって、座りながら休んでいたキャリナにベクアはそう言った。


「別に優勝しろとも本戦に出ろとも言わない。ただ、他の獣化を使える奴らと戦いながら獣化のコツを掴め」


「…はい!分かりました」


キャリナも獣化を使いこなせない現在の状況を改善したいと思っていたのだろう。だからベクアが勝手にとはいえ大会にエントリーしたのは良かったかもしれない。



「本戦って言ってたけど、いつからが予選でいつからが本戦なんだ?」


「あ、そういえば言ってなかったな」


俺はベクアから大会の日程とか聞いていなかった。


「大会はちょうど今日から1週間後から予選も合わせて23日間行われる」


「23日間!?」


思っていたよりも全然期間が長かった。


「まず、最初の14日間が予選だ。その14日間は1日16試合行われる。予選は制限時間30分だ。制限時間内に勝敗が付かなかったら、それまでの前の試合の合計時間が短いやつが勝利する」


「え?大会参加者何人居るの?」


ちなみに、初戦で引き分けだった場合はどちらとも敗退して、次の試合で当たる予定だった人は不戦勝になるそうだ。

それにしても日で16試合って多くないか?


「今年の参加者は…確か250人くらいだったか?」


「多いな…」


そんなに大会参加者は多いのか…。


「本戦は準決勝の日と決勝と3位決定戦の日の2日間以外では、1日で4試合行う。もちろん本戦は制限時間は無しだ」


ということは、計算すると……本戦に出場できるのは32人か。本戦の4日間での16試合でベスト16を決めて、さらにそれから2日間でベスト8を決めるのか。


「もちろん予選でも観戦者は多いが、本戦になると倍以上に増えるからな。楽しみにしておけよ」


「なら予選でベクアと当たらないことを祈ってるよ」


どうせベクアと戦うなら本戦で戦いたい。


「予選で俺と戦うことはないから安心しろ。戦うとしたら絶対に本戦になる」


「え?それって……」


そういえば、まだベクアからどうやって予選の組み合わせを決めるか聞いてなかったな。まさか……


「予選で強者同士が潰し合わないように予選の組み合わせはこっちで調整してる」


「まじか…そんなことやっていいのか?」


言ってしまえば、それは不正に近い。それをこうも簡単にやっていると言っていいの?


「別にこれは獣人の中では暗黙の了解だ。別に予選の組み合わせが決められるとしても、本戦で激闘を見たいってみんな思うんだわ。それに少し組み合わせをいじったくらいで本戦に出れないやつは優勝できないってら共通認識だからいいんだよ」


別に国民である獣人が納得しているなら別に俺はいいんだけどさ。


「一応言っておくが、本戦は完全なランダムなクジで対戦を決めるからな」


「さすがにそうだよな」


まあ本戦で組み合わせを決める理由はないからな。


「今年はゼロスと魔族は強者枠に入ってるからな。キャリナは入れなかったぞ」


「魔族も入っているのか」


もしかしたら、俺が昨日模擬戦をしたのには俺を強者枠に入れていいかの確認という意味もあったのかもしれない。

それから、強者枠に魔族を入れているのかと少し驚いた。予選で魔族同士で削りあってもらおうとか考えると思った。



「魔族に変な癇癪を起こさせないためにも、予選は順当に勝ってもらって、より強い警備が多い本戦で負けてもらいたいんだ。

それに、魔族には本戦で大勢が見ている前で負けてもらいたいだろ?」


「性格悪いな…」


「それはこれを決めた親父に言え…」


どうやら魔族を強者枠に入れることを考えたのは国王のようだ。



「さて、俺もゼロスも本戦に出れるように慢心せずに鍛えるぞ。ほら、模擬戦するぞ」


「はいよ。ソフィ、審判お願い」


「わかりました」


大会まで毎日王城の訓練場に通い詰めて、俺とベクアとキャリナを中心に模擬戦を行った。模擬戦では大会に備えて獣化しかしなかったから、かなり獣化については上達したと思う。




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