第341話 新たな用事
「スーパーハイヒール、ハイキュア」
「くそっ…魔法しか使わないのかよ…」
「いや、魔法のための模擬戦だからな」
ダメージを回復魔法で回復させてた。痺れは一応状態異常だろうから、状態異常を治す魔法も使った。
ベクアは動けるようになって手を出してきたからそれを引っ張って立たせた。
「まだ痺れるか?」
「少しな」
ベクアの手はまだ小刻みに震えていた。どうやらまだ痺れているようだ。
「それで魔法の方はどうだったか?」
俺達の元に国王と側近2人がやってきた。
「魔法もやはり威力は弱まっていると思います。回復魔法も含めてです」
「おい…ゼロス。実験のために俺に回復魔法を使わせたのか?」
「……そんなことないよ?」
「ならなんだその間は…!」
実際、ベクアに回復魔法を使った理由の中に回復魔法の効果も弱まるのかも確認したかったのは事実だ。ただ、試すという理由が無かったとしても回復魔法は使っていただろう。
「なるほど…緊急時に闘技場内で聖女に聖魔法を使ってもらうことは難しいということだな」
あ、そういえば聖女と勇者は護衛のような目的で来るのだったか。もしかしたらもう来ているのかもしれないな。
「それで肝心の威力はどれほどまでに下がっていた?」
『ジール、どのくらい下がってたかな?』
『んー…3割から5割ってところだな。簡単な魔法ほど威力は下がっていたな』
俺はジールに教えてもらったことをそのまま国王に伝えた。どうやら複雑な構造の威力の高い魔法の方が威力は下がりにくいそうだ。もし、ユグとの精霊魔法でとても複雑で発動までに時間がかかる魔法を使ったとしたら、威力はほとんど下がらないかもしれない。
「なるほど…参考になった。ありがとう。私はやるべき事があるからこれで失礼する。今日は急に招いて悪かったな」
国王はそう言って、側近を引連れて帰って行った。結局、俺は国王と魔導具関係の話しかしなかった。まあ、これで俺の目的は終わったな。
「じゃあ、キャリナ帰ろうか」
「ちょっと待て」
「あ…キャリナの部屋も取ってあったけど、キャリナはここで泊まるの?宿で泊まるの?ここで泊まるにしても宿までは着いて来てくれたら有難いんだけど…」
「あ、宿の方に泊まります。何か行動する時に獣人かつ王族の私が居た方が動きやすいと思いますし」
「そっか。ありがとうね。じゃあ帰ろうか」
「ちょっと待てって」
「…ベクア、掴まないでくれよ。帰れないじゃないか」
キャリナと宿へ帰ろうとしていたのに、ベクアに腕を掴まれた。
「勝ち逃げする気か?」
「そんな気は無いって。そんなこと言ったら、何度模擬戦をしてから帰っても俺の勝ち逃げになるぞ」
「てめえ!今度は大会と同じルールで模擬戦をやるぞ!キャリナ!審判を頼む!」
「わかりました」
もう最初に「ちょっと待て」っと言われた時点でベクアと再び模擬戦をするのは確定していた。ならどうせならとベクアを挑発して遊んでいた。
それからベクアと7回、キャリナと2回、ウルザと1回模擬戦をした。キャリナとウルザには全勝で、ベクアには1度だけ負けた。
「うわ…もう真っ暗だ」
「そうですね」
城から外に出ると、外はもう真っ暗だった。時間を確認すると、19時を回っていた。
「明日も宿に行くからな!」
「はいはーい」
ベクアとウルザに見送られて俺とキャリナは2人で宿へ帰って行った。
「夜でも騒がしいんだな」
「大会が近いのも影響していますよ」
どうやらここ首都で大会があるからと観光に来る獣人も多いそうだ。だから大会が近くなると、首都はいつもよりも更に騒がしくなるそうだ。
「適度に隠密を使ってるからいいが…」
道にも人が溢れている。隠密を使って目立たない程度にしているからいいが、気付かれでもしたら屋台で食べ物を売っている獣人に何かしら押し売りされそうだ。そこら中から肉が焼け、タレが焦げるいい匂いがしている。ソフィ達を置いて先に食べる訳にも行かないから我慢しないと。
「そこから裏路地に入って突き当たりを左に曲がったところで待っている。1人で来い」
「っ!?!」
「………ゼロスさん?」
俺は突然立ち止まった。理由は耳元で急に話されたからだ。普通に歩いても誰かにぶつかってしまうほどに人が多いのだから、誰かの話が聞こえてくるということは当たり前だ。また、その話が不穏なのはまあいいだろう。
問題は真横で一瞬だけ発せられた魔力だ。一瞬だけだったが、魔力高速感知で俺よりもソフィよりも高いということがわかってしまった。
「どうかしましたか?」
キャリナが心配そうに顔を覗き込んだ。
「大丈夫だよ。ちょっと用ができたから先に宿に戻っててくれ」
「え?いや…あっ」
道の真ん中で止まっているのは迷惑だから、キャリナの手を掴んでとりあえず道の隅まで移動した。
「ちょっと用事ができたから宿に戻ってて。残っている3人にも何も言わなくてもいいよ。相手も今この場で争う気は無いから」
「っ!大丈夫ですか?」
俺がどんな用事ができて先に宿に帰れって言ったのか、キャリナはわかっただろう。別に口封じはされなかったが、あまり直接話すのは良くないだろう。
「大丈夫。すぐに戻るから」
「…わかりました。宿で待っています」
「ありがとう」
俺はキャリナと別れて裏路地へと向かった。そう言えば、イムの時にも似たような状況はあったな。
ちなみに相手が争う気がないだろうとキャリナに言ったのは嘘ではない。争う気ならあの場で俺に攻撃した方が確実だったからな。とは言っても、本当は一人で行くのは好ましくない。キャリナにソフィ達を呼んで来てと言った方が良かったかもしれない。ただ、ソフィなら転移して突然現れて、急に攻撃しそうだ。街の獣人に被害を出さないためにも、ここで戦闘を始めるわけにはいかない。
「来たぞ」
「待っていたぞ」
俺を呼び出した主はそう言うと、深く被っていたフードを取った。
「リュウ…」
俺をここへ呼び出したのは予想通り魔族のリュウだった。
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