第336話 いざ城へ

「え!?キャリナ進化したの!?」


「うん。それに獣とも契約したよ」


「もう契約したのか!?」


「………」


王城に向かう途中は兄弟3人で仲良く話している。数ヶ月ぶりに会った兄弟で話が弾むのは当然だろうから、俺を抜きにして盛り上がるのは全然構わない。ただね…俺を真ん中に挟みながら話さなくてもいいじゃないか。俺の右側にはベクアが居て、左側にキャリナ、ウルザと続いている。ベクア、場所変わろうか?



「いいな…僕も早く進化したいな」


「焦らなくてもお前もレベル上げさえ頑張ればすぐに進化できるようになるさ」


キャリナを羨むウルザをベクアが兄らしく慰めた。


「キャリナもそんな急激にレベルが上がったってことはそれなりに大変だったんだろ?」


「うん…大変だった……」


キャリナがどこか遠い目をしながらそう言った。確かに最後の方はかなりスパルタになっていたと思う。よくキャリナは頑張ったものだ。


「じゃあ、キャリナも大会に参加するか?エントリーは今からでもぎりぎりだが間に合うぞ?」


「いや、今回はやめておくよ」


俺も一応キャリナに大会に参加するかを聞いたことがある。しかし、その時もキャリナは大会には参加しないと言っていた。理由は、まだニャオナを使いこなせないからだそうだ。それに、魔法が禁止の大会では、キャリナの眼の力はほとんど活かすことができないから参加しないそうだ。



「さて、着いたぞ」


「おぉ…」


獣人の城の本体は巨大な城壁に囲まれていて、遠目からではほとんど見えていなかった。しかし、近くになると、城壁の奥に立派な城があるのが見える。城は縦に長いのではなく、横に広がっていた。高さならエルフの里の城や俺らの住むリンガリア王国の城の方が上だろう。ただ、広さで考えると、もしかしたらこの城の方が大きいかもしれない。



「………」


驚いたのは、俺達が城壁の中に入る時に門番はベクアが手を上げただけで門を開けて通していたことだ。さらに、城の中へ続く城の扉も同じようにベクアが遠くから手を上げたら開けていた。



「……お前が偽物だったらどうするんだよ」


「偽物がこんな堂々と城に入ろうとするか?」


「…いや、しないだろうけど…」


こんな正々堂々と正門から入る偽物が居るとは思えないが、それにしてももう少しちゃんと調べた方がいい気がする。もちろん、俺には分からない魔導具とかで認証なんかをやっている可能性もあるけど。


「じゃあ、こっから先は俺とゼロスで行ってくる。お前ら2人は先に訓練場で待っててくれ」


「はい」


「分かりました」


「…ちょっと待て。俺は王様と会ったらすぐに帰れるんだよな?」


「何言ってんだ?帰れるのは模擬戦をしてからに決まってるだろ。模擬戦もしないで帰れると思っていたのか?」


「はぁ……わかったよ」


王様との面会が終わったらすぐに帰れると思ってたんだけどな…。これは長く付き合わされそうなので、帰るのは夜になりそうだ。

そんなことを話しながら城内を歩いていると、ベクアがある扉の前で止まった。そしてノックもしないで普通にその扉を開けた。



「親父、連れてきたぞ。こいつがあのゼロスだ」


「っ!?」


今の俺は冒険者のような格好だから面会前にちゃんとした服装に準備でもさせてくれる場所に案内されたと思っていた。


「よう、よく来たな。私が現国王かつそこにいるベクアの親だ」


しかし、その部屋には居た書類を読んでいる40代くらいに見えるダンディな男は国王だった。さらに、その斜め後ろにはベクアより少し年上ほどの側近?護衛?が2人立っている。


「…初めまして。ゼロス・アドルフォと申します」


突然の国王との対面にかなり焦ったが、とりあえず普通に挨拶をすることができたと思う。

闇翠と光翠は腕輪状態にしていたからよかった。さすがに国王と会うのに剣を腰に提げてたらまずいからな。



「さて、じゃあ行くぞ」


「「はっ」」


「へーい」


「ん?」


国王と護衛は俺とベクアの横を通り過ぎて部屋から出ていった。それに続いてベクアも部屋から出ていった。


「何してんだ?早く行くぞ」


「え?いや!どこに行くんだよ!?」


ベクアは俺1人だけになった部屋に入ってきて、俺を連れ出すように引っ張った。


「さっき話してただろ。訓練場だよ」


「はっ!?」


訓練場に行くとは聞いてたけど、それは国王と話し終えた後に俺とベクアが2人で個人的に行くって話じゃなかったのか?


「話すにしてもまず戦ってみないとどうにもならないだろ」


「はあ…結局こうなるのね…」


結局、俺は戦うことになるそうだ。どうやってもその展開からは逃れられないようだ。



『ダーキ、獣化はそろそろ許可してくれない?』


もう戦うことは受け入れた。だけど、さすがに獣人と戦うのに獣化をしないという訳にはいかないだろう。


『…確かに最近の戦い方はマシはなっているわね。んー…分かったわ。今日の戦いをテストの場として獣化の使用を許可しますわ。それで合格点なら今後の使用も許可しますわね。でも、不合格なら大会が始まろうとまだ使わせないから』


『頑張ります』


テストとして今回の獣化の使用が許可された。


『ただし、今日は尻尾は4本までね。どんなに負けそうになってもそれ以上はダメだからね』


『了解』


ダーキと心の中でそんな会話をしながらベクアと共に訓練場へと向かっていった。

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