第335話 面倒事?
「ここが宿です!多分大会中はここに寝泊まりしてもらうことになると思います」
キャリナに案内してもらった宿は表通りにどんっ!と構える大きな宿だった。扉の前には警備?と見られる屈強な獣人が4人立っている。
「キャリナ様、並びにお連れ様。ベクア様からご予約されています。部屋までご案内します」
宿の中に入ると、すぐにスタッフが部屋まで案内してくれた。この宿は4階建てらしいのだが、その4階をベクアは全て貸切ってくれたらしい。4階には部屋はちょうど5つあるから一人一つ部屋が割り振られた。
「……集合は俺の部屋なのね」
みんなは1度自分の部屋を決めて、それぞれ部屋の中に入った。しかし、マジックリングがあるので荷物とかがある訳では無いからか、すぐに俺の部屋に集まった。
「キャリナ、これからどうすればいいかな?」
「私達がこの宿に来た時点でこの宿のスタッフからベクア兄様に連絡がいく手筈になっているので、待っていたらベクア兄様の方から来ると思います」
どうやらここで待っていれば問題ないらしい。
俺の部屋で5人でくつろぎながらベクアを待つことにした。部屋の中にはキングサイズのベッドや3人は楽に座れるソファなど、5人でくつろいでも問題ないくらいの広いし、設備も整っている。
コンコン
「はーい」
「ゼロス様、ベクア様とウルザ様をお連れしました。お通ししてもよろしいですか?」
「お願いします」
「かしこまりました」
部屋で2時間弱ほどのんびりしていたらベクアとキャリナの双子の兄であるウルザがやってきた。
「よお!久しぶりだな!」
「お久しぶりです」
「いらっしゃ…ぷっふふ……ベクア!お前っ服装…」
部屋に入ってきたベクアを見て笑ってしまった。ベクアは俺といる時はだいたい冒険者スタイルのいつ戦闘が始まっても大丈夫なような動きやすく性能のいい服装だった。しかし、今は王子ですとでも言いたげな豪華な白い動きにくそうな服装だった。今の服装も別に似合って居ない訳では無いのだが、俺の中のイメージと違い過ぎて笑ってしまった。
「…街の中に居る時くらいは一応王族としてこんな格好をしてないといけないんだよ!」
「いや、ごめんごめん!似合ってはいるよ」
「うるせっ」
ベクアはそう言うと、近くのソファにどかっと勢いよく座った。
「ウルザもいらっしゃい、服よく似合ってるよ」
「あ、ありがとうございます」
「おいっ!俺は笑ったのにウルザはなんで素直にすぐ褒めるんだよ!」
「あははっ」
ベクアが俺に軽く笑いながら文句を言ってきたので、俺も笑って誤魔化しておいた。
「それで遅くなってごめんな。ちょっと俺とソフィに用事ができてさ」
「キャリナの手紙で聞いてるから問題ないぞ」
話の区切りがついたところで、そろそろ真面目な話を始めた。
「それで早速本題だが、早く来て欲しかった理由は1度でいいからゼロスに王城に来て欲しいんだわ」
「俺に?」
「ああ」
多分俺は引きつった嫌そうな顔をしているというのが自分でわかる。それぐらい面倒くさそうだから行きたくない。
「もちろん、人間であるお前が今回の大会に参加することに文句を言いたいやつは俺らが物理的に黙らせたから存在しない。強い奴は獣化が使えればそんな種族が違うくらい小さいことなんて気にしないからな」
「え?」
流れ的に王城で俺が大会に参加することに反対する派閥と戦って実力を示せとか言われると思った。
「ただな…親父…現国王達が人間でありながら獣王と契約している者と話してみたいって聞かなくてな。面倒だろうけど1度王城に来てくれないか?」
「まあ、そういう事なら別にいいかな」
ただ話すくらいならそこまで面倒事でもないだろう。何より断れるとは思えない。
「よかった!じゃあ行くぞ」
「ちょっと待て。もしかして今からか?」
「あ?そうだけど?」
「はぁ…」
ベクアは断られる想定をしていなかったのか?そして、今から俺達に用事とかがもしあったらどうしたんだ?
それと、俺達が来たことを知らせたのはつい2時間前だぞ?王様のアポなんてそんなすぐに取れるものなのか?
「キャリナも着いてきてくれよ」
「わかりました」
「他の3人は悪いけど、この宿で待っててくれ。バッチがあると言っても、お前達だけで街を歩いてたら警戒されるかもしれないからな」
どうやら一般市民は魔族が来るということは知らされていないみたいだが、街の警備員の中には知っている人もいるそうだ。予定な警戒をさせない為にも俺達獣人以外だけで出歩くのはやめておいた方がいいだろう。
「ゼロス!先に行くぞ」
「あ、待てって!3人とも少し行ってくる!」
「問題は起こさないようにしてくださいね。もし何か危険なことに巻き込まれそうなら、直ぐにここに戻ってきてくださいね!」
「ん」
「頑張りなさいよー」
ソフィ達3人に見送られて、急かすベクアに連れられて4人で王城へと向かった。
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