第309話 空耳

「はっ!」


「くっ……参りました…」


「勝者ゼロス」


俺がソフィの首に鞘に入った闇翠を寸止めしたところで、シャナが俺の勝利を宣言して模擬戦を終了させた。



「ふぅ…はい」


「はぁ……はぁ…ありがとうございます」


俺はしゃがんでいるソフィに手を差し伸べた。

俺はソフィとはこれを含めて、あれから5回模擬戦をやった。戦績としては、俺とソフィは共に3勝3敗だ。俺の魔法縛りは3連敗してやっと解除された。解除された理由は、ソフィが俺が魔法縛りをしていることに完全に気がついたからである。その後の3勝した3戦は接近戦がメインで、サブで魔法を使って戦った。



「…お兄ちゃんが魔法を積極的に使うとここまで変わるのですね」


「ありがとう?」


俺は剣がメインでも、さっきの魔法戦と同様に魔法も使っていた。魔法だけの戦いの経験があったおかげか、剣がメインだとしても、魔法でやれることが増えた。ソフィは特にサンダーボムの急発進には苦戦していた。サンダーボムでの移動は雷縮と違って一瞬での移動はできない。しかし、雷縮とは違い、途中で方向転換もできるから自由度が高い。




「じゃあ最後にキャリナ、模擬戦やろうか」


今日はこれからキャリナとする模擬戦を含めて22回模擬戦をした。ソフィと6回、エリーラと7回、シャナと5回、キャリナと4回だ。エリーラとシャナとキャリナとの模擬戦の戦績は全勝だ。

1度だけやった俺は精霊、悪魔、獣が禁止でエリーラは全てのスキル自由での模擬戦は危うく負けるところだった。同じルールで模擬戦を3回やったら1回以上は確実に負けるだろう。エリーラは同じルールで再び模擬戦をやりたがっていたが、もうすぐ日が暮れ始めるから元々約束していたこのキャリナとの模擬戦で最後だ。



「………」


「キャリナ?」


「あ、はい!何ですか?」


「最後に俺と模擬戦をやるって話だったけど、大丈夫?やめとく?」


「あ、ごめんなさい!大丈夫です!」


俺が再び名前を呼ぶまでキャリナはどこかを見つめてぼーっとしていた。


「何かあったの?」


「少し空耳が聞こえただけなので問題ないです!早くやりましょう!」


「そう?ならいいけど…」


キャリナは猫の獣人だから俺達の誰よりも耳が良い。だから俺達では聞こえない音が聞こえたのか?



「両者準備はいいかしら?」


「ああ」


「っ!…大丈夫です」


キャリナは頭をぶんぶん振って、少し間をとってから審判であるエリーラに返事をした。本当に大丈夫なのか?



「では、始め!」


「はーっ!」


「雷縮!」


「にゃくっ!」


俺は走って向かってくるキャリナに対して、雷縮を使って一瞬で近付いて攻撃した。その攻撃をキャリナは何とか防いだ。何回かキャリナと模擬戦をやってわかったのは、キャリナに対してエンチャントは使わない方がいいということだ。どうしても強制的にエンチャントを解除される感覚にはなれない。毎回やってもその隙を突かれそうになる。さらに、エンチャントが奪われると、キャリナにかなりパワーアップさせてしまう。



「はっ!」


「かひゅっ……」


いくら接近戦に特化した獣人だろうが、俺は進化しているのでキャリナには負けない。俺の蹴りが綺麗にキャリナの腹に入った。



「サンダーアロー!」


「はぁ…ふっ!」


キャリナは吹っ飛ばされたが、すぐに体勢を立て直して俺の雷電魔法を避けた。キャリナからすれば1番俺にやって欲しくないのが雷電魔法だ。この魔法は借りたとしても俺にダメージは与えられない。むしろ、雷電魔法を借りている間にエンチャントや他の魔法を使われる危険性がある。

一応この模擬戦にもハンデは存在する。俺はそのハンデのせいでさっきの雷電魔法はあえて詠唱省略で放ったのだ。


「サンダーボム!」


俺は恒例となってきた足裏でのサンダーボムでキャリナに近付いた。


「はっ!」


「くっ…」


そして再び剣で攻撃をした。これをキャリナは短剣を上手く使って受け流した。


「アイスボール!」


受け流した時のほんの少しの隙を突いて、キャリナに氷魔法を放った。俺へのハンデは、最後に参ったと言わせる手段で雷電魔法以外の魔法を使わなければならないところだ。しかし、俺の放った氷魔法のアイスボールはキャリナに当たる前に消えた。


「アイスボール」


そして、消えたアイスボールはすぐにキャリナによって放たれた。俺はそれをノーガードで受けた。元々これはキャリナに奪われる前提で放ったのだ。



「えっ!?」


キャリナは2つの意味で驚きの声を上げた。1つはアイスボールを防御せずにくらったこと、次に自分の周りにファイアアローが数多く存在していることだ。


「キャリナも後ろには目はついてないよね?」


「…参りました」


キャリナは見えていない後ろの魔法まで奪うことはできない。だから全身を囲うように存在するファイアアローは防げない。多重思考を活かせば十数個の魔法を1度に発動するのは難しくない。ただ、全部を奪われないように無詠唱でやったから少し時間はかかった。



「そこまで!勝者ゼロス」


キャリナは魔力感知を取得できていない。だから俺が構築したファイアアローに気付くことができなかった。どうにか魔力感知を取得できるように教えているのだが、上手くいかない。元々獣人は種族的に魔法的能力は低い。魔法を感知できたらキャリナの眼をさらに活かせれるだろう。なぜなら奪える魔法が放たれる瞬間を見つけることができるのだから。さらに、今回俺が放った氷魔法のような威力の低い魔法を察知できるようにもなる。



「明日からまた深林で狩りですから、今日は皆さんゆっくり休んでくださいね」


これで今日の模擬戦が全て終わった。ソフィの言う通り、明日からは再び深林でのレベル上げが始まる。



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