第272話 表彰式

「お兄ちゃん!お兄ちゃん!」


「ん…」


「表彰式がもう始まりますよ」


「表彰式?ああ…表彰式ね…」


最初は何を言っているか理解ができなかった。しかし、少しずつ今の状況を理解できてきた。確か今はサバイバル戦が終わったばかりだったな…。



「動けますか?」


「んー…特に問題ないかな?」


絶好調とはお世辞にも言えないが、普通に歩いたりするくらいから余裕でできる程には回復していた。

控え室にはベクア達も居たので話しかけようとしたが、みんな俺から目を逸らしている。それでも声をかけようとしたら、ささっと離れる。なにこれ新手のいじめか?

そんな中、4位から入場が始まった。俺達は1位なので最後に入場した。



「ではトロフィーを贈呈します!各国の代表者前へ!」


「少し待ってください!」


この国には法皇様なんて居ないので、国王のお話からのトロフィーの贈呈だった。しかし、贈呈前に聖女が大声で待ったをかけた。



「ど、どうしました?」


「私達、神聖タグリオンはサバイバル戦で不正をしました」


これには会場がざわついた。それはそうだろう。急に不正をしたと言われたら誰でも驚く。



「私達は、魅了の魔導具を使い、ゼロス様、ソフィア様以外のリンガリア王国のメンバーに魅力をかけました。さらに、魔導具の退場の仕組みを切ってリンガリア王国だけは舞台内で死ぬと嘘をついて脅しもしました」



いや、あの魅了は魔導具なんかでは無い気がする。基本的に魔導具での何らかの効果は本来のスキルに比べたら弱くなっている。魔導具の性能であの8人を完璧に魅了するのはできないと思う。仮にできる性能があったとしたら、それは対校戦のためなんかで簡単に国から持ち出せるような魔導具では無いだろう。

そして、舞台内で死ぬというのが嘘だということにも違和感がある。嘘だったとしたらベクア達を自害させようとしたことの辻褄が合わない。



「この事は追って国から正式に謝罪します。とりあえず今は神聖タグリオンを不正により、4位としてください」


そこからは少し対校戦実行委員?的な人達が慌ただしく動き出し、何やら小声で話し始めた。

それにしても急に聖女がこんな事を言い出すのはおかしい。俺は横目で後ろにいるソフィの方を見た。すると、目が合ってニコッと可愛く微笑んだ。いや…可愛いけど、今回ばかりはそれでは誤魔化せてないから!帰ったら詳しい事情聴取だからな!



結局結論としては神聖タグリオンは4位となった。ただ、事実確認はこれから行われるそうだ。とりあえず今は自己申告により、4位にしておいたということだ。

聖女のせいで表彰式は長引いてしまったが、無事に表彰式を終えて再び控え室に戻った。




「………」


「………」


しかし、控え室では、優勝チームとは思えないほど空気が重くなっていた。誰も何も話していない。



「さあ…皆さん、そろそろ言いませんか?」


ソフィがそう言うと、全員がくるっと俺の方を向いて頭を深く下げた。


「「「足を引っ張ってごめんなさい」」」


そして8人が揃って謝ってきた。



「…ソフィ、みんなに何を吹き込んだの?」


「私は皆さんが魅了にかかったせいでどれほどお兄ちゃんが苦労していたかを30分程使って詳しく説明しただけですよ」


「よし、これがソフィのせいなのはよく分かった」


つまり、ソフィが良くも悪くもストレートにあった事を話したせいでみんなは責任を感じているのだろう。


「今回は相手が悪かった。俺とソフィが魅了にかかっててもおかしくはなかった。俺達はたまたま耐性があってかからなかっただけだからそんな気にしなくていいよ」


ソフィがブラコンでは無く、俺がシスコンでは無かったら魅了にかかっていた。シスコンだったおかげで魅了にかからず助かったとは誰にも言えない。



「だが…」


「本人が許すって言ってくれるんだからもういいわよ。どうしても不甲斐なさが残るなら、それはこれから払拭していけばいいだけでしょ」


「…そうだな」


まだ何か言おうとしたベクアをエリーラが止めた。それからはすぐに解散となった。今日の反省会的なものは明日やる予定だ。今日はもう疲れた。



「あ、お兄ちゃんは先に帰っててください」


「……程々にな」


「分かりました」


俺は珍しくソフィとは別で帰った。多分ソフィは聖女の所へ行くのだろう。何をやるのか知らないが、やり過ぎなければいいな。念の為に着いていきたいところだが、今は早く横になって休みたい…。







「ダーリン、今日はいっぱい活躍してたね!」


「…何でお前がここにいる…?」


1人で歩いて帰っていると、急に誰かから肩を叩かれて話しかけられた。隠密をしていたけど、対抗戦に出ていた人だとバレたか?

振り返るとそこに居たのは、初めてあった時のような冒険者の格好のイムだった。



「ねえ、少し僕と2人で話さない?」


「……分かった」


こんな街中で暴れられたら確実に死人が出る。俺は大人しくイムと一緒に人気のない所まで移動した。



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