第264話 ピンチ
「ベクアは何人場外に出せたんだ?」
少し下を向いているベクアにそう話しかけた。もしかしたらエリーラに良いとこ取りをされて落ち込んでいるのかもしれない。
「ベクア?」
「………」
かなり落ち込んでいるのかベクアは全く喋らずに近付いてきた。
「お兄ちゃん!」
「なっ!」
そんなベクアが急に走り出した。また、走り出したのはベクアだけではなかった。エリーラも、シャナ達も同じタイミングで走り出した。
「お兄ちゃんから離れて」
しかし、ソフィの風魔法によって全員吹き飛ばされた。吹き飛ばされたベクア達は受け身も取らずに倒れた。普段のベクアならそんなことはありえない。そしてベクア達はゾンビのようにゆっくりと起き上がった。
「お仲間を攻撃するなんて酷いですね」
「………よく会うな」
「そうですわね」
そして前から聖女と勇者がやってきた。そしてその勇者達と一緒にいる他の3人は俺達と同じチームメンバーだった。その3人はぼーっと勇者達に着いてきている。
「あ、ソフィアちゃん、魔法を僕達に打つのはやめてくださいよ。とても痛かったですよ?次にそんなことをしたらこの3人を殺しますよ?」
「気持ち悪い呼び方をしないでください。それに、この舞台の中では誰も死にません」
「それがもし死ぬとしたらどうですか?」
まずBがソフィに話し掛けた。ソフィは何も言わなかったが、話していることがおかしい。まるでソフィに魔法を食らったかのように話している。
そして、死ぬことはないと言ったソフィに聖女がさらにそう返答した。
「私達の優秀なお仲間がリンガリア王国に属する者への魔導具の効果を無くしてくれました。つまり、リンガリア王国の皆さんだけはこの舞台内でも普通に死にますよ」
「それが本当かどうか…」
「はい。もちろん嘘かもしれませんよ?試してみてはいかがですか?誰か一人の首をはねれば答えが分かりますわよ」
「………」
確かにそうすれば答えは出る。場外に転移したなら聖女の言うことは嘘で、その場に倒れたら本当だ。だが、この疑いが出た時点で試すことはできない。聖女の言うことが本当なら試した時に殺してしまう。要するに勇者達と一緒にいる3人は人質ということなのだろう。
「そんなゼロス様に提案です。勇者の1人と1対1で戦って手も足も出ずに負けてください」
「は?」
「そしてボロボロになった時に参った!とでも叫んでくれれば誰も死なずに終わりにしてあげますよ」
「…何のため?」
聖女からの提案は意味不明なものだった。それをするメリットが分からない。ソフィが少し怒り気味で聖女にそんなことをする理由を聞いた。
「もちろん世界中に勇者の実力を見せ付けるためです。もちろん私達4人でなら確実にゼロス様にでも勝てますよ?ただ、4対1で楽々勝っても周りからは人数差で仕方が無いと思われてしまいます。
しかし、1対1で圧倒的実力差で勝てば、勇者が最強だと誰もが気付くことになるでしょう。そうすれば、もし今後強大な魔物や魔族などの敵が現れた時に全ての国が勇者を、神聖タグリオンを頼らざるを得ません。そうすれば神聖タグリオンは他の国々に対して優位に立つことができます」
「つまり、1対1だとお兄ちゃんに勝てないからこんな茶番をしているんですね」
「あ?何だと!?」
聖女に言い返したソフィにAが反応した。しかし、前に進もうとしたAの前に腕を出して聖女が止めた。
「もちろん勝てますよ?ただ、万が一負けてしまった時に勇者のブランドが傷付いてしまうのでこのような安全策を取っています」
俺はソフィと聖女の会話中に多重思考を駆使して考えていたことがある。それは、「なぜソフィは操っていないのか?」という疑問だ。
まだ俺を操らないのは1対1で負けさせるためだと言われたらまだ理解はできる。操った方がより簡単な気もするけど…。
しかし、ソフィを操らない理由はさっぱり分からない。俺の立場で考えたら、他の誰よりもソフィを操られたくないというのは簡単に分かることだと思う。ソフィを操られていたら俺はこの1対1で負けるという条件を素直に飲んでいたかもしれない。勇者と聖女にソフィが敵になったら勝ち目はかなり薄くなる。聖女はなぜソフィを操っていないんだ?
いや…操っていないのでは無くて、操れないのか?
いや、その前にどうやってベクア達を操っているんだ?よくあるのは洗脳や魅了か?洗脳は短時間では難しい。となると方法は魅了なのか?それとも俺の知らない方法があるのか…。
そしてソフィと俺を操れない理由はなんだ?
進化しているから?いや、ベクアも進化している。転生者だからか?でも、それだと根拠としては弱い。俺とソフィの操られないための共通点…。
あっ!わかったぞ!ソフィが重度のブラコンで俺がシスコンだからだ!シスコンには魅了耐性があったはずだ。ならブラコンにも魅了耐性があるはずだ!だから俺達は魅了で操れないのか!
操っている方法とソフィと俺が操られないという理由もわかった。後はこの状況をどうするかだ…。
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