第260話 3人の勇者
「ソフィア様とはこうして対面するのは初めてですね。私は神聖タグリオンの聖女であるリズリー・カトリエルと言います。気軽にリズリーとお呼びください」
「聖女様初めまして、私の事はアドルフォとでもお呼びください」
ソフィは聖女のリズリー呼びを無視して聖女様と他人行儀で呼んだ。さらに、自分のことはアドルフォと呼ばせる徹底ぶりだ。
「もっとゼロス様達とお話したいのは山々ですが、まずは後ろの方を紹介しますね」
出来ればこの場から去りたいのだが、そんなことをする前に聖女が話し出した。去年の表彰式から思っていたが、この聖女と目を合わせるとゾワッとする気味悪さがある。何なんだこれは?
「こちらが勇者の3人です」
「………」
「………」
「ふーん…」
勇者は前に出てきたのに、挨拶も何もしないで、俺達を値踏みするように見ていた。挨拶はともかく名前くらいは言えよ…。それと。男の勇者は俺の事なんか全く見ていないな。とりあえず男Aと男Bと女の容姿は残念ながら整っていた。顔面水準の高いこの世界でも上位の方だろう。髪色は男Aが濁った金色で、男Bが薄橙色、女は茶色だった。
「はぁ…じゃんけんだよな?」
「当たり前だろ!」
「「最初は…」」
急に男Aと男Bが2人でじゃんけんを始めた。一応この世界にもじゃんけんはある。
「顔は…96点…。体型は98点ね。後は…」
女の方は俺を見ながら1人で何かぶつぶつ呟いている。
「しゃ!俺の勝ちだ!」
「くそ…!ここだけは勝ちたかった!」
「残念だったな!飽きたら貸してやるかもな!」
女の方に注目している間にAとBのじゃんけんが終わったようだ。ちなみに勝者は会話的にAのようだ。
「よし!お前!俺の女になれ!」
「絶対嫌です」
「俺が泊まってる宿は…ん?今なんて言った?」
「絶対嫌だと言いました」
Aがソフィに急に頭のおかしい事を言い出した。何でこういう奴らは自分の誘いが断られ無いという絶対的な自信があるんだよ。
「は、は?俺は勇者だぞ…?」
「ごめんな、この子は僕に惚れちまったようだね。惚れてる相手は奪わない約束だよね?この子は僕の女になりたいんだよ。僕が居る宿は…」
「あなたの女になるのも絶対嫌です」
「は?」
Aが振られたのを見て今度はBがソフィに言い寄った。そしてAと同様に振られた。
「平均97点。今までで最高点よ。当然合格よ。あんたは私のものになりなさいよ」
「やだ」
「まず最初は喉が渇いたから飲みも…今なんて言った?」
「嫌だ」
ソフィが言い寄られるのはかなりあるが、俺まで言い寄られるとは思わなかった。というかどこをどう点数付けていたんだ?少しだけ詳しい採点箇所が気になる。
「何で勇者である俺の誘いを断るんだ?」
「何で勇者である僕の誘いを断るの?」
「何で勇者である私の誘いを断れるの?」
そして3人が似たようなことを言い出した。こいつらは今まで自分の要望を断られたことは無いのか?何でそんなに有り得ないみたいな驚いた顔をしているんだ?
そんな時、ふと聖女はどんな表情をしているのか気になって見てみた。すると、聖女はニヤッと笑っていた。しかし、俺から見られていると気が付いた瞬間に、にこにことした顔に戻った。何か企んでいるのか…?あっ!この聖女が何をしたいかが何となくわかった。
「いいからお前は俺の女になればいいんだよ!」
「お待ちください」
ソフィを掴もうと腕を伸ばしてきたAを聖女が止めた。ここからの流れは想像できた。チラッとソフィを見てみると、頷いていた。まあ、俺が考えれることはソフィも考えられるよな。
「すいません。私達は試合を応援したいので失礼します」
「はぁ?あんな雑魚共達の応援なんかいらないだろ」
「さようなら。次はサバイバル戦で」
ソフィにAが文句を言ってきた。それにちょっとイラッとしたが、あまりそれを言葉に出さずに返答できた。俺とソフィは席から離れた。
「お待ちください!」
聖女がそう言ってくるが無視した。見えなくなるくらいで隠密を最大にした。これで見つからないだろう。
「あれって勇者にやる気を出させるためだよな?」
「きっとそうでしょうね」
多分聖女は、サバイバル戦で神聖タグリオンが勝ったらソフィがAのもの、俺が女勇者のものとでもして対校戦でのやる気を出させようとしていたのだろう。元々何日も遅れるくらい勇者のやる気は無いのだからおそらく予想は合ってると思う。
「これからはお兄ちゃんは勇者が帰るまでずっと私と一緒に行動してくださいね」
「えっと…何で?」
「私が勇者に襲われてもいいんですか?」
「その言い方は狡いな…」
ソフィを襲えるほどあいつらは強そうには見えなかった。ただ、エクストラスキルでそんなの変わってしまうかもしれない。だから全く油断はできない。
「あ、あいつらのステータス見れた?」
「いえ…見れませんでした」
どうやらステータスは見れないようになっているみたいだ。あの神が余計な事でもしたのか?そうだったら殴ってやる。
「それでお兄ちゃんは私とずっと一緒にいてくれますか?」
「本当は勇者関係無しにソフィが一緒に居たいんじゃないの?素直に言った方が可愛いよ?」
「勇者なんか関係無しに、私はお兄ちゃんとずっと一緒に居たいです」
「変わり身早いな…まあ確かに勇者は心配だから少しの間はそうしようか」
「ありがとうございますっ!」
お礼を言うと、ソフィは俺の腕に抱き着いてきた。いや…まだ試合中だから試合をちゃんと見ようよ。でも、確かに一般常識の無い勇者が何をしてくるか分からないから複数人で行動するというのは必要かもな。
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