第249話 獣人の王

「ふぅ…」


俺の決勝での事を説明し終わると、ウルザとキャリナが近くで俺の獣化を見たいとキラキラした目で言ってきた。別に隠すことでもないから獣化して狐の耳と尻尾を出した。そしてその状態のまま2人と模擬戦をしたりもした。2人の後で他の人とも模擬戦をした。今はその休憩のために、俺はみんなから少し離れた。連戦で少し疲れて深い息を吐いてしまった。



「ゼロス、ちょっといいか?」


「ん?」


そんな俺にベクアが誰にも聞こえないくらいの声でそう言ってきた。俺はベクアに連れられて、共にそっと静かに練習場から出た。



「あんまり長く離れると怪しまれるから早めに済ませるぞ」


ベクアは最初にこんなことを言ってきた。今から話すことは極力他の人には知られたくないようだ。


「ゼロスの事情で言わなかった事はあっただろう。別にそこについて俺は何も言わん。ただ、獣との事は俺はよく知っている。ゼロスがどんな獣と契約したかも分かっていると思う」


きっとベクアには俺が獣王と契約したことがバレているのだろう。まあ…ベクア相手に隠しきるのは難しいよな。



「多分俺で分かるのだから、他にも分かる獣人は居るだろう。そして獣鎧と獣化、それだけでゼロスに獣人の血が多く入っていると獣人達に思われるだろう」


確かに普通は精霊と契約できるのはエルフ、獣と契約できるのは獣人と思われている。もしかしたら精霊と同様に獣にも種族関係なく魔法陣などを使って契約を結べる方法があるのかもしれないけど、それは分からない。


「獣人の王は数年に一度の闘いで決まる。それの参加資格は獣鎧と獣化を使える強者という事だけだ。これには元々、獣鎧と獣化を使える人間は想定していない。つまり、お前でも参加できてしまう」


確かにその参加条件だと、残念ながら俺でもその王決めの闘いに参加出来てしまう。



「獣人にお前のことがバレたら、ほぼ無理やり参加させられるかもしれないから気を付けろよ。もちろん俺がそんな事をさせないようにするけど、絶対に抑えられる訳では無い。警戒だけはしとけよ」


「ああ…」


それを言ってベクアは練習場の方へと歩き出した。エルフの王になる心配がほぼ無くなったと思ったら次は獣人の王かよ…。


「あっ!」


「ん?」


ベクアが練習場の扉に手をかけた時にそう言って急に振り返った。



「獣人の王になりたかったら参加する事に協力するぞ?もちろん俺も闘いに出るから負けるつもりは無いがな!」


「王になるつもりは無いから安心しろ!」


「そうか!」


そしてベクアは笑いながら練習場の中に入っていった。俺は獣人の王になるつもりはさらさらない。






「あの時お兄ちゃんはベクアと何を話したのですか?」


練習場から家に帰って来た時にソフィにそう言われた。別に俺の事情を知っているから話しても問題は無いだろう。


「ひ、み、つ」


だけどちょっとした悪ふざけでそう言ってみた。


「わかりました…お兄ちゃんにはもう何も聞きません…」


「わー!言うから!そんな泣きそうにならないでよ!」


冗談でそう言ったのにソフィは涙を流しながらそう言ってきた。だから俺は慌てて謝った。



「はい!じゃあ話してください」


「…嘘泣きかよ」


ソフィはさっきの涙は何だったんだと思うほどケロッとそう言ってきた。さっきのは嘘泣きだったようだ。俺はすっかり騙されてしまった。


「水魔法って便利ですよね」


「水魔法かよ!」


どうやったら目から水魔法で涙を表現できるのかよ!そんな使い方どこで覚えたんだよ!俺はそんな細かい操作は無理だよ。

無駄な精密操作に呆れながらベクアに話されたことをソフィに伝えた。




「エルフの次は獣人ですか…はぁ……」


「そうなんだよ……」


ソフィは最後にため息をついた。そして今はとても面倒くさそうな顔をしている。



「獣人の国に行かなければ問題ないですが…多分いつかは行きそうですね」


「そうなんだよね」


多分エルフの里のような感じの行き方では無いけど、行く事にはなりそうな予感がしている。


「まあ、今回はその闘いに参加しても負ければいいだけですから簡単ですよね??」


「そうだね」


もし強制的に出場させられても負ければいいだけだから問題ないよな?問題ないと信じたい。







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