第246話 園内戦4日目 後

「よし!」


今は時間が無いので、とりあえず悪い称号ではないだろうから効果は確認せずに、不眠不休、避雷針、一騎当千を外して新しい称号をセットしてから走り出した。悪魔化もしたので、ステータスが前よりも上がっている。だから基本的に直線的にしか移動できない雷縮を使うよりも走る方が良い。



「は!」


ソフィの魔法準備よりも俺が斬りかかるスピードの方が早い。これでソフィが斬られてくれたら楽なんだけど、そうはならなかった。



「悪魔化」


ソフィが悪魔化したのだ。綺麗な2つの翼が生えた。だからといって悪魔化で俺とのスピードの違いが埋まる訳では無かった。ソフィは俺の攻撃で致命傷になるものを躱すので手一杯なのだ。あの魔力をそのまま放つ準備以外は何もしていない。俺も悪魔化したので、ソフィが悪魔化してもさっきと状況が変わっていない。ソフィはどちらか1人でしか悪魔化していないのか?

そして魔法の準備が終わったのか、ソフィが俺の顔に手を向けてきた。



「フル魔力バースト」


さっきの5倍以上の魔力を込めて放ってきた。ただの魔力の塊なので、目には見えない。でも、同じものはさっき既に見ている。俺に対して、至近距離だからといって、ただ魔法を放つのは舐め過ぎだ。

俺はソフィの放った魔力を斬った。魔力高速感知で場所が分かりさえすれば、俺の神速反射をもって斬るのは難しくない。魔法斬りから魔力斬りに進化したので、魔法以外にも斬ることは出来る。




「……負けました」


ソフィは回復魔法を封じられたのだ。俺から与えられた斬り傷も一つ一つを見て考えても致命傷にはならない。とはいえ、ところどころ深い傷もある。そんな傷が身体中に無数にあれば、それだけで致命傷になり得る。ソフィは倒れてそのまま転移した。




「試合終了!!勝者!ゼロス・アドルフォ!!」



最後は少し呆気ない気がするが、俺はソフィに勝つことができた。俺は精霊化、獣化、悪魔化、エンチャント、雷電纏を解除して舞台から降りてソフィの元へ向かった。




「…悪魔王と契約していたのは完全に想定外でした。おかげでディアが全く使い物になりませんでした。……すいません。これはただの敗者の言い訳だと思って聞き流してください」


「あっ」


確かにソフィはディアの能力である反射を1度も使っていなかった。接近戦の時には使う場面はいくらでもあっただろう。ディアは悪魔王に萎縮してしまったのか。



「今から15分後に表彰式を開始します!」



「では、お兄ちゃん、また後で」


「ああ、また後で」


あと15分後に表彰式があるというアナウンスがかかったので、俺とソフィは一旦それぞれの控え室に戻った。




「ふーう…」


『ゼロ、おつかれ』


『ゼロくん、おつかれ』


『おつかれ』


『なかなか良い戦いだったぞ』


『みんなもお疲れ様』


控え室に入って、ため息を吐きながら椅子にどかっと勢いよく座ると、ジールとユグとダーキとブロスから俺を労る言葉がきた。俺もそれに労いの言葉を返してから、休むために数分間眠りについた。





「これより表彰式を開始します!今大会の優秀者たち!どうぞ!!」



そのアナウンスで俺とベクアとソフィは舞台に上がった。そこからの流れは去年とほぼ同じだった。俺は国王様から直々に黒い表彰盾を貰った。




「これにて園内戦を終了する!」


国王様がそう言って園内戦は終わりを告げた。



「よお、ゼロス。聞きたいことがあるんだが、ちょっといいか?」


「……」


退場した後にそのまま家へ向かおうとした。そんな時、後ろからベクアに肩を掴まれながらそう言われた。ベクアは肩に手を置いたのではなく、掴んでいるのだ。俺が逃げないようにしっかりと。



「ゼロスよ。翠闇と翠光はどうなったのだ?あの様子を見るになまくらから元に戻ったのか?」


「あっ」


そして今度は正面からもう片方の肩をグラデンに掴まれた。そういえば、剣が大丈夫になったことをグラデン達ドワーフに伝え忘れていた。



「とりあえず翠闇と翠光は大丈夫だよ。良い剣をありがとう。何で一時ダメだったかについては明日詳しく話すよ」


「分かった」


「ベクアも今日は試合で疲れてるし、みんな集まってないから、明日みんな集まった時に言うよ」


「分かった」


そう言うと、ベクアとグラデンは俺の方から手を離して帰って行った。



「じゃあソフィ、俺達も帰ろうか」


「はい」


そして俺はソフィと一緒に家へ帰った。

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