第192話 神雷

「ふっ!」


俺の作戦は成功した。前世の俺を殺したやつと思われる神雷はあまり使いたくなかったが仕方がない。

ちなみに神雷は威力が未知数なので、殺し合いでは無い今は誤って殺す危険性があるので普通では使えない。それにもしそれを抜きにして使ったとしても、俺への体の負担が大き過ぎる。負担が大きいということはエンチャントするもまず無理だろう。一歩も動けなくなるだけだ。でも、今の兄妹喧嘩中に取得したハーフエンチャントならギリギリ耐えれるんでは無いか?と思った。まあ、魔法ではない神雷をエンチャントできるかは分からなかったので、そこは賭けになったが…。結果としては、ハーフエンチャントに成功して、無理な体勢からでもソフィの魔法を全て斬ることができるほどステータスは急上昇した。



「いぎっ……!」


しかし、ハーフとはいえ、それほどまでステータスが上がるということは、やはり体の負担も大きかった。動き終わると、全身が引き裂かれるような痛みがやってきた。あまりの痛みに膝をついて蹲ってしまった。だが、この痛みだけならギリギリだが、動けないほどでもない。問題は骨や筋肉などのダメージだ。俺は蹲ってすぐにソフィの魔法を警戒した。しかし、俺のエンチャントの正体が分からないせいか、警戒した様子で魔法を放ってこなかった。


「回復トリプルエンチャント…」


だが、まだエンチャントできる数は残っている。ステータス上昇は全くなく、ただスタミナと怪我を回復させるだけの回復エンチャントを3つ分行った。


「はぁ…はぁ…」


回復トリプルエンチャントのおかげで何とか動けるようになった。神雷ハーフエンチャントでの痛みはまだ多少あるが、骨や筋肉の怪我については回復トリプルエンチャントで治る。動けるようになった俺はゆっくりと立ち上がった。



「お兄ちゃん?それはなんの魔法?そんな魔法知らないよ?妹の私に隠し事なんて酷い。泣くよ?」


「俺よりも秘密たっぷりのソフィにそう言われるとは思わなかったよ」


ソフィがどのくらい魔法を使えるかや、どんなスキルを持っているかなど、俺はソフィのステータスについて知らないことだらけだ。



「ん…?」


俺はソフィに聞こえない程度の声でそう呟いた。何かほんの少しだけだが、魔力が減っている。さっきまでは減ったらすぐに満タンになっていた。あっ!そうか!供給量よりも消費量の方が多いのか!神雷ハーフエンチャントってそんなに魔力消費するのか!これはこのまま呑気に様子を伺ってお互いに睨み合ってる場合ではない。俺は接近戦に持ち込むためにソフィに向かって行った。


「しっ!」


向かってすぐに、氷の壁が現れた。きっとソフィは俺のスピードが速すぎるから雷縮だと思ったのだろう。だが、今は普通に走っているだけだ。だからこの魔法で作った氷を斬ることもできる。


「かはっ…」


そして走っている勢いを保ちながらソフィの腹を剣の腹で殴った。両辺に刃のついているこの剣では峰打ちが出来ないので、剣で攻撃するとなったら腹で殴るしかない。刃の方で攻撃したら勝ってはいたが、それだとソフィを真っ二つにして殺してしまうからできない。しかし、これだけで意識を刈りとることは出来なかった。俺は今度こそ意識を刈りとるために、吹っ飛んだソフィを追って地面を蹴った。



「…魔法解除!」


「え…?」


急に俺の回復トリプルエンチャントがパチンッ!と弾かれたように解除されてしまった。そのせいで一瞬とはいえ動きが止まってしまった。しかし、ソフィがその一瞬の隙を逃すはずもなく、俺に魔法を当ててきた。




「なんだよそれ…」


幸いなことに、ソフィの魔法は俺を離れされるための土の塊だったので、高威力では無かった。少しの怪我は回復トリプルエンチャントで自動回復された。空中で魔法を斬って地面に着地した。だが、俺はソフィから10mほど離れてしまった。

そして、神雷ハーフエンチャントのための回復効果が無くなったので、身体の痛みが再び延々と来るようになった。だが、今すぐまた回復トリプルエンチャントをすると、それが無いと動けないと思われてしまう。ステータス上昇は今のが限界で、回復はソフィの一撃で気絶するレベルの魔法が当たった時の保険だと思わせたい。俺は強がりながら平然と立ち上がった。



「…何でそのエンチャントは残っているの?」


「さあ?なんででしょう?」


「…まさか精霊魔法じゃないよね?」


「そんなことするわけないだろ」


俺が精霊降臨や精霊魔法でのエンチャントをしだしたらソフィも悪魔を呼び出して憑かせるだろう。だからそんなことは出来ない。


「じゃあなんてスキルなの?」


「…それは…ん?ソフィにしては珍しく詳しく聞きたがるね?」


普段のソフィなら戦闘中にスキルの詮索なんてしないと思う。そしてこの質問をしたらソフィは急に黙った。


「つまり、なんかスキルを知りたい理由があるの…?」


「………」


図星だったようだ。あっ!そういえば、ソフィが俺を魔族たちから来た時に、急に使ってるスキルを解除された。魔法はさっきのように解除したのだろう。あっ…なるほど…神雷は魔法ではないからハーフエンチャントは解除されなかったのか。

ん?ならあの時、雷電鎧はどうやって解除した?あれも魔法ではない。さっきの状況から察するにもしかすると、名前や詳細を知っているスキルも魔法のように解除する方法があるのか?雷電鎧ならソフィの前で試していたので詳細なども知っているだろう。




「エンチャントロック」


ソフィが何かを小声でそう呟いた。当然ソフィが何を言ったかは俺には聞こえてこなかった。


「え!何でそのエンチャント解除されないの!?」


「ん?」


ソフィが急に驚き始めたが、意味が分からない。とりあえず、強がりがそろそろ限界なので身体の治療がしたい。



「回復トリプルエンチャント。………え?」


回復トリプルエンチャントをしたはずなのに効果だけダブルエンチャントになっている気がする。ソフィが少し混乱しているうちに、今度はダブルエンチャントにしてみた。すると、効果は普通のエンチャントになった。次は普通のエンチャントにしようとした。しかし、発動しなかった。




「……なるほど、そういう事か」


少し考えたら答えが出た。ソフィはきっと何らかのスキルで俺のエンチャントを使えなくしたのだろう。ダブルエンチャントは、エンチャントとダブルエンチャントの両方を使ってダブルエンチャントが発動するいう判定なのだろう。だからダブルエンチャントが普通エンチャントになったのだろう。ということはトリプルも同じ原理か…。俺が普段エンチャントをする時にはぼそぼそと口にするだけなので、ハーフという言葉は聞こえなかったのだろう。だから今の神雷ハーフエンチャントを止めるために、誤ってエンチャントを使えなくしたのだろう。



「お兄ちゃんが何をしてるのかについては後でゆっくり聞けばいっか…。今のお兄ちゃんのスピードもわかった。ならそのエンチャントがあっても大丈夫」


そう言ってソフィは静かに魔法の準備を始めた。そして俺は魔法が放たれた瞬間の隙を狙うために剣を構えた。



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