第80話 シャイナ視点

「はぁ………」


私はゼロスとソフィアと別れて家に帰ってすぐにベッドに飛び込んだ。

そして私は2人と初めて会った日のことを思い出していた。



(つまらない。退屈。醜い)


私は8歳の時の社交界でそんなことを思っていた。昔の私はもっと明るくよく喋る子供だった。しかし5歳の時にあるスキルを取得してから私は変わってしまった。




【ユニークスキル】

・心眼Lv.1



このステータスを見るといつも思うが、このスキルは呪いのようなものだ。このスキルは見た相手の考えていることが文字となって現れる。そしてこのスキルは常時発動している。最初は面白いと喜んだ。しかしこのスキルの真価を発揮するとそんな考えは消え去った。私と仲が良かった家柄のいい友達はみんな親から私と仲良くしろと言われているとわかった。特に男の子は私と恋仲になれと言われている場合もあった。みんなで笑いあっているのに心の中では私の事を鬱陶しいと思っているとわかった時に5歳の私の心では耐えきれなかった。それから私は人間不信のようになった。



(馬鹿ばっかり…)


みんな私の腹違いの兄の機嫌をとっている。そんなことをつゆ知らず兄は喜んでいる。そんな時に私は面白い双子と出会った。


〈こんな面倒なことしてないで早く料理を食べさせろよ…。せっかく美味しそうなのが並んでるのに〉


これが双子の兄の方の思考だった。今日私の兄のそばに来た人達にこんな考えの人はいなかった。みんなこいつと仲良くなれば……なんて考えていた。


〈あっ、奥の女の子は綺麗な顔をしているな…。ソフィと並んでも引けを取らなそうだ〉


女の子の容姿を比べるのに妹を比較対象とする人がいるのかと思った。そして同い年の子に純粋に容姿を褒められたのも初めての気がする。男はみんな私で変な妄想をする。父様と近い歳の人にそんなことをされた時は鳥肌がしばらく消えなかった。

そして思考が面白いのは双子の妹の方もだった。


〈お兄ちゃん…めんどくさいのが顔に出すぎですよ

〈あっ、あの料理お兄ちゃん好きそうだ後で教えてあげよう

〈お兄ちゃん…なんでその女のことを凝視しているの?惚れた…なんてないよね?

〈お兄ちゃん…さすがにこの場面ではあくびは我慢してください


びっくりした。私のスキルは思考が文字として出るので読まなければ相手の考えは分からない。しかし読まないようにしてもつい文字を読んでしまう。だがこの妹の思考は読もうとしても読めなかった。なぜなら思考が高速すぎる。私が読み切る前に新しいことを考え出す。ただ全ての思考にお兄ちゃんという単語が入っているのは見えた。こんなやばいブラコンいるんだ……。私は少し引いてしまった。



「おいっ!そこの女!お前を俺の正妻にしてやる!ありがたいだろ!」


そして私の兄は意味がわからないことを言い出した。このブラコンがいくら地位があるからといってこんな兄ごときと結婚するわけはないだろう。こんな兄に呆れていたがそんな気持ちが吹き飛ぶくらい驚くことがおきた。


〈ぶん殴る!〉


いくらカッとなっても第3王子を殴ろうなんて考える者はいないだろう。それもスキルまで使って本気で殴ろうとしていた。しかしそれは未遂で終わった。そしてその後は妹の方がやんわり断ってその場は落ち着いた。そして兄の方はカッとなったのは反省していたが殴ろうとしていたのは別に反省も後悔もしていなかった。こんな人達は私は初めて見た。そして私はこの呪いのスキルを得てから初めて誰かの事をもっと知りたい、仲良くなりたいと思った。それでなのか無理を言って次の日に会いに行った。2人のことをよく知ってもやはりこの2人は面白かった。そして何よりこの2人はとても強かった。私は才能があるのに努力しないクズを何人も見てきた。しかしその誰よりも才能があるのにも関わらずこの2人は努力も誰よりもしていた。私もこの2人のようになりたいと思って精一杯努力した。




「私はまだ弱い……弱すぎる…」


本選でソフィアと戦った。その時は結構いい勝負をしたと思っていた。ソフィアは真面目に戦ってくれた。しかし本気では戦っていなかった。そんなことは決勝戦を見たら誰でもわかるだろう。本選の中だと実力的には私はあの2人の次の3番目に入るだろう。だけど私とあの2人とは大きな差がある。私は探知の能力であの2人と同じパーティで冒険者をしている。だけど探知の能力ならそのうちゼロスかソフィアも覚えられるだろう。その時に私はお荷物になる。2人はそんなことを言わないし考えもしないかもしれないがそれでもお荷物にはなりたくない。



「でも今年は私達で3連勝で勝てる」



今日の帰りに2人にこれを言ったのは自分にプレッシャーをかけるためだ。私はこの王都で開催された対校戦を見たことがある。その時に留学生の実力も見た。今の私ではきっと勝てないだろう。でもこんなことを言ったからには私も勝たないといけない。純粋な近接戦ではゼロスに勝てないし、魔法戦ではソフィアに勝てない。どちらもバランスよく身につけてもただのゼロスの下位互換だ。私は私の戦い方で2人に追いつけるように強くならなければいけない。



「もうあんな惨めな思いはしない」


決勝戦はまさに2人だけの世界だった。2人とも全力を尽くして戦っていた。私はそのステージにはいない。完全に蚊帳の外だった。そしてソフィアがえんりょなくゼロスに全力を出させることのできる唯一の相手というのに腹が立った。もしかしたら私はゼロスのことを好きなのかもしれない。けどまだ人間不信ぎみの私ではそれが分からない。


「人の思考は分かるのに自分の心は分からない…」


鏡を見ても自分の思考は出てこない。自分の思考が分かればゼロスに対する私の本当の気持ちも分かるのに。




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