34話 決戦前

あれからどれくらい走ったのだろう。近いと思ってたけど多分500メートルくらいは平気であるのでつらい。

そもそもこの格好は確実に走るのに向いていない。

スカートから体温がどんどん抜けていく感じがする。

足は冷たさに慣れたのか、もはや何も感じない。

いつもより血の気がなくて真っ白な気はするけど。

こんな状態でこれから大事な話なんてできるのかな。

そもそも田中先輩が一人で行って大丈夫なのかな。僕が一人で行くよりは確実にマシだと思うけど。

あ……マップで場所送ってくれた。

助かる。正気な時はすごい頼りになる……。

どこにスマホを入れてたかは聞かないほうが良さそうだけど。

疲れて死にそうになりながら到着……。

端的に言うなら死屍累々って感じだった。あれから何が起こったのか蘇我島さんの周りには霧原先輩の部下?らしき人達が散らばってると言っていいくらいバラバラに倒されててピクリとも動かない。

そして蘇我島さんと霧原先輩は真っ向から睨み合っている。

もしかして昨日の夜から今までずっとやってたんだろうか?

明日葉さんは霧原さんに守られるように後ろに倒れ込んでる。

でも他の人と違って明らかに意識がある。

「トウッ!!」

その声と同時に僕の後ろから田中先輩が飛び出した。

「矢部くんが来るのを待っていたよ!双方拳を下ろすんだ!!」

睨み合う二人の間に立つ変t田中先輩。

「変態王……?」

「変態王……」

二人がほぼ同時にそう呼んだ。

変態王??

「霧原くん。蘇我島。もう一度だけだ。拳を下ろすんだ」

「私が貴方に攻撃しないと思いますか?変態王」

「君は一般人にみだりに暴力を振るったりしない。それと、君が動くより私が脱ぐほうが早い」

なんで脱ぐ話になったの?

「散々です……」

限界だったのが気が抜けたのかその場で倒れ込む霧原さん。

「自力で帰ってきたのか総長。偉いじゃねぇか」

蘇我島さんが血まみれでニカッと笑う。怖い。

でもありがたくはある。

「蘇我島さんが霧原さんをここで止めてたからです。もし霧原さんが戻って来なくて、明日葉さんが助けに行かなかったら、チャンスはなかった」

「……おう。まぁ、ここがバレるのはシャクだが、待ってれば小葉も来る。それで終わりだ」

蘇我島さん的にはそうだよね。

蘇我島さんのゴールは僕を小葉さん?に引き渡すことだったから。霧原さんたちのゴールは僕を人質にして小葉さんと交渉する事。

でも明日葉さんもみんな霧原さんが心配で助けに行った。そこでまさかの返り討ちにあったわけだけど……。

ほんとにまさかそんな事になるとは。

蘇我島さん化け物すぎない?

「蘇我島さんに聞きたいことがあるんです。それで来ました」

「あ?」

こわい。

「僕が総長代理に勝ってるところ。教えてください」

でもここで引いちゃいけないんだ。

霧原さんだってこんなにボロボロになるまで木の葉さんのために必死になってるんだから、僕だって。

「……何もねぇよ。お前がアイツに勝ってるところなんてなんにもねぇ」

「でも僕なら小葉さんに勝てるんですよね」

「何が言いてえんだお前……。まさかアイツよりも偉いし勝てるって話聞いて調子に乗ってんのか?」

怒った……?まだ立ち上がれるのこの人……?

「どうしても必要なんです。僕は、霧原さんの言ってる事も間違ってると思わないです。だから、教えてください」

じっと蘇我島さんの目を見る。背が高い人の目を見る時、睨んでるように思われる事があるので気をつけつつ。

「必要なんだな?どうしてもか」

「どうしてもです」

「言っておくが俺は話したくねえ。アイツが心の底から大事にしてるもんだぞ。それを俺に話せって言うんだな?」

当然。

「はい」

「ならその格好で頑張って本人にお願いしてこい。媚び売ってみろ。それでアイツはお前の望み通りにする。絶対にだ」

男のプライドを捨てろとおっしゃる?

弱点教えてください!ってこの格好で言えって事?

「なるほど、理解したよ。完璧に理解した。蘇我島、君は案外理解があるほうだね」

田中先輩?

「うるせえ殺すぞ。ほんとにお前わかってんのか?」

「君は私が変態王の称号にそぐわない男だとでも?」

「気持ち悪いもの誇ってんじゃねぇよ……」

どういうこと?

「秘密なんて知る必要はないって事さ。君はその格好で君のやりたい事をお願いするんだ。それが一番だよ」

「この格好で?」

「そう、その格好で。できるだけ可愛くね」

まさか総長代理も僕を女だと思ってて色仕掛けしろって事なのかな。

確かにそれなら蘇我島さんも言いたくないのは分かる。

「あとは好きにしろ……俺はもう寝る。変態王、この辺のゴミ片付けとけ……」

蘇我島さんも流石に限界だったのか崩れ落ちるように倒れた。

「救急車何台必要になるかな……。矢部くん。あとは君次第だ。そうだね?」

僕は頷く。

これでようやく鍵は揃うはず。

一つ目は僕が持つ必ず小葉さんに勝てる事。

二つ目はその理由。

三つ目は……小葉さんに勝つことだ。

それでやっと霧原さん達とも決着が付けられるはず。

足音がたくさん近づいてくるのが聞こえる。

多分……これがお迎えなんだと思う。

どうやってここを特定したのかは分からないけど。

ゴールが近づいてる

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

毒舌かわいい矢部さんは男の娘!! 明日野 望 @asunonozomi5

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ