「それを見つめる側」の中にのみある感傷

 国際宇宙ステーションに常駐し、その管理や修繕などを行うロボット『ゾーイ』と、地球側の担当者・エマの対話のお話。
 シンプルながらもゴリゴリ胸に突き刺さってくるSFです。無人の宇宙ステーションを舞台に、その管理者たるAIの視点から描かれる物語。淡々した展開とその描写がいちいちツボをくすぐってくるというか、こういうのに弱いので最高でした。面白かった……。
 道具立てそのものは特段目新しいものでもないというか、むしろある種の定番ともいえる部分もあるのですけれど、その利点を見事に使い切るかのような話運びが素晴らしいです。読み手の意識の誘導のさせ方がうまい。完全に「宇宙に孤立したロボット」の視点のみを通じて描かれた物語であるため、得られる情報に限りがあり、おかげでついつい先の展開を予想させられてしまうという、その手際の巧妙さに惚れ惚れしました。
 特に好きなのがゾーイとエマ、ふたりの登場人物の心の機微です。エマに関しては直接登場することはなく、ただゾーイとの通信の内容だけがわかる程度なのですけれど。その文面に滲む彼女の感情というか、そのような表現をさせるに至った様々な思いの、その実際を想像(というか、逆算?)することの面白さ。
 またゾーイに至ってはAIであり、彼女にはそもそも感情そのものがなく(なくもないとも解釈できますけどここでは同じこと)、でもそうであるがゆえに引き立つ悲哀の強烈なこと! なにか人ならざる存在に、もとよりありもしない心を勝手に見出すことの、そのある種エゴイスティックな感傷が本当に心地良かったです。
 最後が好きです。終盤の展開と結びの一文。荒涼とした宇宙の光景の中に、しんと胸に染みる余韻を残してくれる、シンプルながらも切れ味の鋭い小品でした。読み手として感じたことや思ったことが、本当にどうやっても「こちらの勝手な思い込み」の域を出なくなっちゃうやつ。物語とどうしようもなく隔絶されていることを思い知らされる、その感覚の不思議な心地よさ。こういうの大好きです。