~36~ 類友①
『アロー、フランク』
【お疲れ、リュカ。仕事の方は滞りなく終わったか?】
『変わりなく終わったよ。聞きたいのはエクトルさんのことだろ?』
リュカが前置きはいいよと言いたげに問うと、【あぁ】と返事が返ってきた。
『仕事面では全く支障はなかった。いつも通り』
【仕事面では?】と引っ掛かりを感じたフランクはすぐにどういうことか訊ねる。
『昨夜は会社に泊まったらしい』
【は?】
『今朝出勤したらすでにデスクにいて仕事をしていた。デスクの横にはボストンバッグがあったから不思議に思っていたんだが、さっき聞いたら泊まり込んでいたらしい』
【なんで……】
『居ないって実感すると駄目だって言ってた』
フランクは電話越しに息を呑んだ。そして、そういうことかと理解する。
『昨日のお身内のことだと思うんだが、あんまり深くは聞かなかった。さっきも退社する準備をしていなかったから、多分、今日も泊まるんじゃないかな』
【……分かった。今から行ってみる】
『じゃあ、くれぐれも無理はしないよう伝えておいてくれ』
常にエクトルのそばに控えているリュカには、エクトルが内心ではまだ気掛かりに思っていることがバレバレだった。心此処に在らずといった感じだったからだ。それでもミスなく仕事ができている辺り、エクトルの非凡さが如実に表れているのだが。
【分かった。伝えとく。お前も心労が絶えないな】
『まぁ少し驚いたけど、そういうところがあっても良いんじゃない?』
類友とはよく言ったもので、リュカもフランクや友莉と同じ考えのようだ。弱っているエクトルも悪くないと思っているのだろう。
『そういう時に支えるのが俺の仕事だったりするしね』
【さすがリュカだな】
自分がそこまで臨機応変に動けなかったことを思い出し、フランクは自嘲気味に笑った。
【お前だってそうだろう? エクトルさんはフランクのことを頼りにしてるぞ。それは見ていて分かる】
実際は友莉の方を頼っていると思うが、フランクは【そうか】と短く答えるだけに留めた。
『取り敢えず、エクトルさんの方はよろしく』
【あぁ、分かった】
苦笑して承諾したフランクは【またな】と言い、リュカとの通話を終えた。
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