~25~ 不吉な知らせ
朝の一件から、なかなか仕事に身が入らなかったエクトルは、羽琉の態度が急変した原因を頭の中で懸命に探っていた。現実逃避したいくらいのショックを受けつつ昨日の様子を思い出す。
誰かから電話がきて、何か言われたとか?
だが羽琉のスマホにはエクトルとフランク、友莉、サラ、ナタリーの番号しか登録していない。もちろん人間関係でこじれたことなどは全くないし、どう考えても羽琉が態度を急変させるような連絡をするはずがないことは明白だ。
どう考えても腑に落ちない。加えて、原因が分からないと改めることもできない。
深い溜息を吐き、羽琉とどう接すればいいのか険しい表情で思案していると、エクトルのデスクの電話が鳴った。
『ご自宅のハウスキーパーのサラ様からお電話が入っています。緊急の御用があるそうですが』
総合受付からだ。
滅多に会社に電話をしないサラからの連絡に、エクトルは胸騒ぎを感じた。
分かったと言い、通話を引き継ぐと『エクトルさん』と焦った様子のサラの声が響いた。
『何があった?』
【ハルさんが家で倒れていたので、今救急車で病院に向かっています】
『何だって⁉』
電話の内容に息が止まりそうなほど気が動転した。
【今、シルヴィ・ホスピタルに向かっています。取り急ぎご連絡しました。着いたらまた連絡します】
通話が切れた後も内心でひどく動揺していたエクトルに、『エクトルさん』と声が掛けられる。
『何かあったのですか?』
訊ねたのはエクトル付きの秘書であるリュカだ。
毎日ジムに通っているリュカは細マッチョと呼ばれる類の体格をしており、引き締まった体と整えたブロンドの髪が清潔感を感じさせる。誰が見ても好感が持てる好青年だ。
フランクと似たり寄ったりの真面目な性格をしているリュカは、珍しく焦っている様子のエクトルに怪訝な表情を向けた。
『…………』
そのリュカの表情で自分がどんな状態なのか悟ったエクトルは、自身を落ち着けるように深呼吸を繰り返した。
『身内が倒れて今病院に搬送されている。すまないが、今日はこのまま帰る』
リュカは微かに瞠目した後、すぐに『分かりました』と肯く。
『午後からの会議資料は準備してありますし、内容は把握してあります。会議進行もお任せ下さい。今日のスケジュールは全て延期できるものなので、各方面に連絡を取り、次回の日程も調整しておきます。こちらのことは気にせず、焦らずに向かって下さい』
頼もしいリュカの言葉に一つ肯き返したエクトルは、『落ち着いたら連絡を入れる』と言い、羽琉が搬送された病院へ急いで向かった。
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