第313話 騎士のなかの騎士

 メドン騎士団が、野原の北側にあつまっていく。


 おれはいまいちど、この野原を見まわした。


 崩れかけの石壁が、野原に点在してある。そのほとんどは南側だ。


 ほかに、南東のはしにも大きな遺跡があった。かつてそこは神殿があったのか、大きく丸い石柱が四本残った建物の残骸だ。


 北側には、なにもない。障壁のない地帯だ。


 メドン騎士団がまとまる。円形に隊列をととのえた。


 三千を超える騎馬の群れだ。それがいっせいに反転する。


 駆けだした。むかうさきは、メドンを追いかけようとしていたネトベルフの千騎。


 ネトベルフの隊が、あわてて進路を曲げた。敵の数は三倍。正面からあたれば、ネトベルフのほうが圧倒的に弱い。


 逃げるネトベルフの隊。メドン騎士団が追いかける。


 そのメドン騎士団の側面へ、ボルアロフの千騎がぶつかった。だが、おしい。ぶつかった衝撃を受け流すかのように、メドン騎士団は進路をまげた。


 そのまま弧をえがくかのようにメドン騎士団は駆ける。今度はアトの隊へと襲いかかった。


「あぶない!」


 よこで馬に乗るテレネが声を漏らした。


 アトの騎馬隊は急角度で曲がった。動きについていけなかった数十騎が隊から遅れる。そこにメドン騎士団。こちらの騎兵が倒れるのが見えた。


 フラムの百騎が騎士団の背後からせまる。メドンは察知したか。騎士団はアトの隊にぶつかったあと、そのまま駈けぬけた。


 わが軍の騎馬隊四つは、どれも南へと馬をむけた。大軍の動きやすい北側は不利だと感じたか。


 対するメドン騎士団は、馬の足をゆるめた。そして止まる。南に移動するわが軍を追いかけなかった。


 北のなにもない区域に、メドン騎士団。南の遺跡がある区域に、レヴェノアの騎馬隊。距離をあけて双方が止まった。


 にらみあっているかのようだ。だがさきに動いたのはメドン騎士団。三千を超える固まりのまま南にむかって駆けた。


 騎士団がむかったのは、アトがひきいる千騎の集団。これは王であるアトをねらったものではないだろう。馬群のなかにいる王を、味方のこちらでも見つけられないのだから。


 わが軍の騎馬隊は三つに分かれているが、そのなかで動きを比較すれば、もっとも練度が低いのはアトの隊だ。


 アトの千騎が駆けだす。それを追ってメドン騎士団も進路を変えた。


 騎士団の駆けるまえに遺跡の石壁があった。その手前でふたつに割れた。通りすぎると、またひとつに固まった。


「この地形に、もう対応できるのですか!」


 よこにいるテレネが、おどろきの声をあげた。おれも同感だ。じゃまな石の瓦礫がれきがある南側は、大軍では走りにくい。そう思っていた。


 楕円に固まる騎馬の群れ。隊のなかほどに白い羽織りが見えた。五英傑、聖騎士メドン。


 聖騎士とは、メドンがみずからそう呼ばせているらしい。だが、どこかの神殿に所属しているわけでもない。


 五英傑メドンの話は、猿人族でも知っている話だ。十二才という若さで入隊。その三年後の十五才で、アッシリア王都騎士団に選ばれている。


 そこからアッシリア国とウブラ国による長い戦い。そのなかでメドンは、武勲をあげつづけ、騎士団長にのぼりつめた。


 騎士のなかの騎士。そういう呼び方もされると聞いたことがある。


「ラティオ様、わが軍の両名が!」


 テレナが指をさした。アトを追うメドンの大群。その左右へ千騎の隊がせまる。


 生粋の騎兵は、なにもメドンだけではない。ふたりは呼吸をあわせたかのように同時だった。流れるような動きで左右からメドン騎士団をはさみ、そのまま併走する。


 両軍は同方向に駆けながら、長剣をふるい戦っていた。


 たまらずメドン騎士団の駆ける速度が落ちた。そう思ったが、敵は急反転した。


 この動きだ。三千を超える騎馬がいるのに、一糸乱れぬ反転ができる。


 メドン騎士団は反対の方向へ駆けると、また北にのぼった。それをわが軍の騎馬隊は追いかけない。


 北と南にわかれた。それぞれの隊は、速度を落とし、やがて止まる。人も馬も呼吸をととのえているようだ。


 野原の中央、その各所に倒れた兵士と馬が見えた。両軍がぶつかり、戦闘のあった場所だ。何十かの倒れた人と馬が見える。


 兵士の姿は、おなじような鋼の胴当てと兜をつけていた。だが、メドン騎士団は下地の服が白だ。


 倒れた兵士の数は、ほぼ同数に見えた。つまり互角の戦いをしている。


「まずいな」

「ラティオ様、まずいとは?」


 思わずつぶやいた。となりで馬に乗るテレネが聞き返してくる。


「わたしには、互角に戦っているように見えます」

「そう、互角だ。それは消耗戦を意味する。消耗していけば、いずれ敵の剣は王のアトに届く。そのまえに王を離脱させたいところだが、アトを離脱させれば互角だった戦力も崩れる」


 言っているそばから、またメドン騎士団が南にむかって駆け始めた。

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