第41話 大蛇の最後
塔の一階では兵士がまだ寝ていた。階段を駆けあがり牢屋にいく。
鉄格子には
まるめた長縄は思ったより重い。広場に駆けもどると息が切れた。
大蛇はどこか。広場から家が建ちならぶほうへと移動している。せまい路地裏に入ろうとしているのか!
ぼくは長縄を肩からおろし、先端をつかんだ。
大蛇が首をもたげている。黄色い目の瞳孔はたてに細い。その目がぎょろっとまわりを見た。大きな牙のあいだからは、長い舌が見える。
駆けだそうとするが足がすくんだ。小さいころ、ぼくは毒蛇に噛まれて生死をさまよったことがあるらしい。そのためか、昔から蛇は苦手だった。
何本かの矢が飛んだ。皮の表面で跳ね返される。そのうちの一本が突きたった。大蛇はのたうち尻尾をふりまわす。尻尾が家のかべに当たり無残にくずれた。
「アト、それを貸せ!」
ラティオが駆けながら手をひらいた。ぼくは手をのばし、先端を差しだす。
ぼくのまえを駆けぬけながら、ラティオは縄の先端をつかんだ。弧を描くように走り大蛇へとむかう。
大蛇が口を大きくひらく。ラティオにせまった。
「ラティオ!」
すばやくかわし、首の下にすべりこんだ。さらに縄を持ったまま背中によじ登ろうとしている。縄を首に巻きつける気だ。ラティオが大蛇の背に乗ると、大蛇が激しく身をくねらせた。ラティオが跳ね飛ばされる。
地面に激突したラティオは、まだ縄を離していない。起きるより早くさけんだ。
「縄を全員で引くぞ!」
長縄はちょうど蛇の頭の下で一回まわっている。ぼくは足下の長縄を見た。円状に束ねていた残りはすくない。あわてて縄をつかむと、縄に引っぱられつんのめった。
「アト、離すな!」
ラティオの声。手のひらに巻きつけてにぎる。大蛇が動きまわり、ぼくは引きずられた。顔を地面の砂でこすった。でも両手は離さない。
ペレイアの男たちが駆けてくる。ぼくの縄をつかんだ。
「少年、だいじょうぶか!」
ぼくはうなずいて立ちあがる。ラボスの男は弱音を吐かない!
ラティオが持つほうにも、人が群がっていた。みんなで縄を引く。首にまわされた縄で身動きが取れない大蛇はさらに暴れた。
「尻尾くるぞ!」
大蛇は身を反転させ尻尾をふった。当たる。顔をそむけると、がん! と鉄に当たった音がした。
「ドーリク!」
巨漢のドーリクが大きな大きな盾を持ち、ぼくらのまえに立っていた。
「いまなら、いけるやもしれん!」
ボンフェラートが進みでて手のひらを大蛇にむけた。呪文を唱えはじめる。
「
大蛇の表面を灰色のような
「いまだ、引け!」
力をふり絞り縄を引く。大蛇の頭がさがった。そこに走る影があった。グラヌスだ。
グラヌスは長剣を背中に背負い、両手には短剣をにぎっていた。それも逆手だ。
走りよったグラヌスが跳んだ。大蛇の皮に短剣を突きたてる。それを反動にして、さらに上へもう片方の短剣を突きたてた。
その短剣にぶら下がる格好になったグラヌスは足をふり、背中にかける。大蛇の上に立った!
頭へ駆けると同時に背中の剣をぬく。頭の上につくと剣をすばやく持ちかえ、真下へと突き刺した。
大蛇がのたうち、頭の上のグラヌスがころげ落ちる。
「みんな、縄を!」
ぼくの声にまわりが気づき、みんなで必死に引っぱる。
しばらく動いていた大蛇は、尻尾がばたりと倒れ、次に口をひろげたまま横に倒れた。頭には剣が刺さったままだ。
たおせた。ぼくは縄を離し、その場にへたりこんだ。いっしょに縄を引いたペレイアの人たちも、力尽きたかのように地面に腰をおろした。
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