第19話 バラールの都

 バラールの都に着いた。


 馬が盗まれたので、一日では着かなかった。でも今日は夜明けとともに歩きだし、朝のうちに着くことができた。


「これがバラールの入口」


 バラールの南門を見あげた。なんという大きさだ。


 都は、石組みの大きな壁で四角くかこまれている。その壁が見たことがないほど高い。村の長老が住む家が二階建てだったが、その屋根ぐらいだろう。


 さらに南門は正門なのか、壁の高さを超える大きさだ。二本の巨大な支柱があり、そこに石のアーチがかかっている。


 門をくぐると、人の活気が襲いかかってきた。街のなかも石造りで背の高い建物が建ちならぶ。どの建物も三階以上はあった。もはや低い建物はない。


 一階が店になっている建物が多かった。そこへ人がいそがしく出入りし、石畳の通りには、あふれるように人が歩いていた。


 猿人族が多いが、犬人族の姿もいる。まれに、そのふたつとは異なる種族も見かける。見た目から思うに、猫人族だろうか。


 ラボス村で言えば、収穫祭で村中の人が広場にあつまったような混雑だ。それが通りのむこうまで、ずっとつづく。気が遠くなってきた。


「傭兵の斡旋所があったはずだ。行こう」


 グラヌスに言われ、気をとりなおした。隊長について歩きだす。


 街ゆく人に聞きながら斡旋所がわかった。斡旋所というから、役所のような大きな建物かと思ったらちがった。肩を寄せあうように密集した建物。そのうちのひとつ、一階が店ではない建物がある。


 なんの飾りもない扉をグラヌスが押して入った。


 なかにいた数人の男と目があった。強そう。でも、グラヌスのような戦士とはちがう。もっと粗野であらあらしい。傭兵だろうか。


 部屋の壁に沿って、大きなテーブルがならんでいた。手前のテーブルで書面の山にむかって作業をしている婦人がいた。グラヌスが婦人に近づく。


「ここは傭兵の斡旋所だろうか?」


 虫眼鏡で書面を見ていた婦人が顔をあげた。


「そうだけど、なんだい?」

「傭兵を雇いたいのですが」


 グラヌスが言い終わる前に、部屋にいた男たちが笑った。


「おめえさん、そりゃ無理だ」


 奥のテーブルにいた甲冑を着こんだ大柄な男が言う。男は猿人族だ。


「無理とは?」

「東の遠方にある国で大きないくさが始まった。今、バラールに傭兵はおらんよ」


 東の遠方というからには、ウブラよりさらにさきか。


「お前は、傭兵ではないのか?」

「おりゃ、今日帰ったばかりだ。しばらくは休みよ」


 グラヌスと見あう。これは困ったことになった。


「ほかに斡旋所はないだろうか?」

「あるにはあるが、どこも同じだろうな。バラールお抱えの傭兵団なら、なんとかなるかもしれねえ。役所で聞いてみな」


 男に礼を言い、斡旋所を出た。


 役所も道ゆく人に聞くとわかった。都の中央にある大きな建物だ。これだけ大きな街だ。お抱えの傭兵というのも大勢いるだろう。しかし、その予想はすぐに外れた。


「今は、外部の依頼は受けておりません」


 役所の窓口で頬のやせた男に言われた。


「今は、と言うからには、いつもは受けているのか?」


 グラヌスが聞きなおした。


「余裕があれば」

「なぜ、今は余裕がないのだ」


 頬のやせた男は面倒くさそうな顔をした。


「近くのザンパール平原で、ウブラ兵による大規模な演習が行われております。用心のため、直轄の傭兵団は都の守りについておりますので」


 ザンパール平原の演習。グラヌスが「馬鹿息子」と呼んだダリオンの話は本当だったのか!


「どうしても、兵力がいる。どうにかならぬだろうか」


 グラヌスは本気で頼んでくれている。ありがたい。


「さて、あとは囚人でも雇いますかな」

「しゅ、囚人?」

「左様で。保釈金を払っていただければ、あとは煮るなり焼くなり使っていただいて結構ですが」


 グラヌスが目をむいてぼくを見た。思ったことは同じだろう。商業都市といわれるだけのことはある。なんでも金だ。


「では、その囚人はいずこに?」


 聞いた場所は、都の北門を出た外側だった。


 グラヌスと北門まで早足で行く。北門を出ると薄気味の悪さに思わず足が止まった。地面は陽があたらず、じめっとしている。そこに灰色によごれた石造りの大きな建物があった。


 入口に甲冑をつけた男が立っている。囚人を雇いに来た、というとすんなり入れてくれた。


 入ったとたん、すえた臭いがして思わず腕の服で鼻を押さえる。


 建物のなかは、いくつか大きな部屋にわかれていた。なかはさらに細かく牢屋がわかれてある。


 建物に入ってすぐの部屋に行ってみた。奥の部屋ほど長く牢屋にいる囚人だと聞かされた。長くいるということは、それだけ罪が重いといえる。


 部屋の入口でグラヌスが直立不動になった。


「このなかで、戦いに行くやつはいないか! 場所はアッシリアのラボス村。村にあらわれたグールを殲滅せんめつする!」


 だれも答えなかった。


「保釈金とはべつに、報酬もだすぞ!」


 グラヌスが大声で追加した。でも、だれも答えない。


「おい、グールなんて名前だしゃ、ここに来るような連中は無理だろう」


 手前の牢屋から聞こえた。牢屋のなかは暗く、だれが言ったのかわからなかった。


「声をあげたのは、どいつだ。名を名乗れ!」


 グラヌスが声のした牢屋の前に立った。ぼくもその横に立つ。


「あん? 珍しいな。人間か」


 声の主がわかった。牢屋内の正面にある長椅子に座っている男だ。


「だれだ、名を名乗れ」

「そういうのは、言った本人からだろうよ」

「自分は第三歩兵師団、第五隊長のグラヌスだ」

「ラボス村、セオドロスの子、アトボロス」


 ぼくも名乗っておいた。


「おれはヒックイト族のラティオ」


 暗がりの男が言った。ヒックイト族? 聞いたことがなかったが、グラヌスがぼくの耳に近づきささいた。


「アグン山に巣くう山賊だ」


 山賊! ぼくは思わず、うしろにさがった。

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