26 発見
『領主館・応接室/ディアフローテ』
数十分ほどが過ぎ、動くための指示をすると言って席を立っていたオリビア様が一人の女性を伴って応接室へ戻ってきた。
「失礼します」
「イザベラ、よく来てくれました。貴女が来るなんていったい何があったのです?」
イザベラはインバーテラで私が強く信頼する騎士の一人だ。
ある程度情報を共有してあり、誘拐に関する捜査を任せていた部下の一人だった。
その彼女がわざわざ来たということは、かなり誘拐に関する重要な情報を手に入れたということに他ならなかった。
イザベラは一瞬ちらりとオリビア様に目を向けた。
私はその意味を間違えることなく理解し、頷いて見せた。
「かまいません。オリビア様にも情報を共有してください」
「わかりました。報告いたします。本日昼頃、マハキーファで警戒をしていたところ、孤児を数人馬車に乗せ、街から連れ出す者が現れました」
マハキーファはインバーテラの4つある街の一つで、元々ゴールドフィール領に属していた街だった。
「近くで見ていた孤児に確認しましたが、子供がいなくなる前によく見かけていた女性だということです」
「それで街を出た後はどうしたのです?」
「目標は南門を出てゴールドフィール領方面に馬車を進めました。私たちは指示の通り、行き先を突き止めるために手を出さず追跡を開始。領境に着いた時には日が暮れかけていたので、今夜は領境の宿場で夜を過ごすようです。そこで私はディアフローテ様への報告を指示され、こちらへ来ました」
確定ですわね。
誘拐は本当にあり、誘拐犯は本当にいた。
あとはこれまで連れ去られた子供を見つけて犯人を捕まえれば、あちらの件は事後処理を残すのみ。
その辺りは解決後に色々と話し合う必要があるだろう。
「聞いていいかしら?」
「はい、どうぞ、ミスティリア卿」
「街を出る時と領境を越える時にチェックをするでしょう? 問題は出なかった?」
「はい。距離を取って見ていましたが、とくに問題が起きたようには見えませんでした」
「街を出る時に問題があっても素通りさせるように指示していたということは?」
「いえ、まさか。そのような指示はさすがに出せませんよ。そのような指示をすれば子供以外の問題も素通りさせることになってしまいますから」
「では馬車の持ち主を示すようなものは付いていなかったかしら? たとえば商会のロゴのようなものはなかった?」
「いえ、付いていません」
「……そう。ありがとう」
「オリビア様はこれが誘拐ではないとお考えですか?」
「いえ、今の話を聞いただけでは判断はできませんね。子供なら薬などで寝かせておくことで不自然ではないように見せかけてチェックを抜けることもできるかもしれません。できれば街と領境に寝ている子供をたくさん乗せた馬車が通らなかったか確認したいところですが、それをするより追跡目標に直接確認した方が早いでしょう」
「そうですわね。拠点のようなものを見つけられなかったとしても、目標を確保すれば少なくても誘拐の有無は確認できるはずですわ」
「そうなると誘拐とセイラーズ商会の方で手を分けなければならないわね」
「誘拐の方は私が行きますわ。エリザベリィはオリビア様とセイラーズ商会の方をお願いします」
「わかりました」
「こちらから騎士を二人同行させてもらいます。連絡要員としてお使いください」
連絡員というよりも監視員でしょう。協力はするが勝手はするなという意味だ。
他領の人間に勝手されたくないと思うのは理解できるので、納得するしかない。
「わかりましたわ。では私は準備をさせてもらいます。イザベラ、こちらで少し休憩をさせていただきなさい。30分ほどしたら出ます。オリビア様、よろしいですか?」
「かまわないわ」
オリビア様はハンドベルを鳴らしてメイドを呼ぶと、イザベラの世話を指示してイザベラとメイドは出て行った。
「エリザベリィ、準備の手伝いをお願いしても良いかしら?」
「はい、もちろんです」
「それではオリビア様、準備ができ次第出発させていただきますので」
「ええ、こちらの騎士は北門で待たせておきますので合流してください。それと無茶なことはなさらないように。自分の立場を忘れないようにお願いします」
「目標を追跡して行き先を突き止めるだけですわ。拠点を見つけても突入したりしませんのでご心配なく」
私はエリザベリィを伴って応接室を後にした。
■□
□■
『領主館・通路/ディアフローテ』
領主館の通路をエリザベリィを引き連れて進みながら、私は彼女に話しかけた。
「エリザベリィ」
「はい?」
「明日、一日待って私が戻らなければ領地へ戻りなさい」
私が言うと、エリザベリィは驚いた顔をこちらに向けた。
「ディアフローテ様?」
「領地に戻ってから七日過ぎても私から連絡がなければ、王都に行き、すべてを話して調査させてください」
「待ってください。何を言っているのですか?」
「リスク管理の話です。これは逆の立場になれば私もそうするということです。貴女がメルフィアたちのように姿を消すことになったら私はさっき言った通りの行動をします。覚えておきなさい」
「……わかりました」
「それと問題がないようでしたら明日一日街を見て回るのも良いでしょう。馬車の中から少し見ただけでは得られないものが見えてくるかもしれませんからね」
「それはどういう……?」
エリザベリィは不可解といった顔で聞いてきたが、私は何も答えなかった。
別に意地悪したわけではなく、言葉で意味を説明するほど大した理由がなかったからだった。
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