32 オリビアとお風呂で
カポーン
アリシアたちと話をしてから、しかたなく領主館に行ってオリビアに色々と説明した後、俺はなぜかオリビアの屋敷の広い浴室にいた。
まぁなぜかってのは現実逃避だな。
色々内緒にしていたせいで不機嫌になったオリビア様のお怒りを鎮めるべく、例の話を実行する時が来たというわけだった。
俺の目の前には灯りを受けて白く輝くような肌のオリビアの背中がある。
母の背中と違い肉付きが薄く、シャープな体つきをしている。
けれど、貧相というわけじゃなく、女性としての魅力に欠けるというわけでもない。
胸はほどほどに大きくて、腰がくびれていて、お尻はきゅっと締まっている。
ファッションモデルをしたら同性から憧れられそうなスタイルだというのが最初に見た感想だ。
もちろん男としては、そんな感想だけでは収まらない。
今オリビアに振り向かれたら、恥ずかしくて逃げたくなるような状態になってしまっていた。
俺は無心無心と心の中で雑念を唱えながら、泡立てたスポンジでオリビアの背中を擦った。
「ねぇ、クリスくん。お肌荒れてないかしら? 必要のない心労がすっごく溜まることがあったの」
嫌味をありがとうございます。とっても気が紛れますわ。
「いえ、とてもお美しいです。ぴかぴかです」
実際すべすべな背中はシミ一つなくて綺麗なものである。
手で撫で回したくなる衝動を抑えるので理性が大忙しだ。
「そう? 本当かしら? 誘拐事件の件といい、セイラーズ商会の件といい、寝る間も惜しんでがんばったのだけど、私」
ちょおごめんなさい。
オリビアの考えていた最悪の結末というのは、誘拐事件の犯人がセイラーズ商会で、それが騒ぎになってしまい大混乱が起き、暗黒時代の再来を招いてしまうことだった。
その結末を避けるために、誘拐の真偽を探り、セイラーズ商会の関与を探り、ディアフローテたちが騒ぎを大きくしないように監視し、神経を張り詰め続けた。
誘拐の真実を知っていた俺よりも、ずっときついプレッシャーを感じていただろう。
本気で申し訳ないと思っています。
背中を泡だらけにしてから、腕を取ってスポンジを滑らせる。
肩から指先まで、指の一本一本、指の間まで気持ちを込めて丁寧に洗っていく。
「その、本当に悪いと思ってるから。ちゃんと話そうとは思っていたんだぞ?」
「本当かしら? 今回だって誘拐絡みの話が無かったら、保護の話とか私には言わなかったわよね?」
「え? あー……」
たしかに今回の件がなければ、楽園計画関連の話はオリビアにはしなかったかも。
だってなぁ、恥ずかしいだろ、楽園計画の内容って。
内緒で子供を保護していた理由を説明するのに適当な言い訳が見つからなかったので話すしかなかったが、話さずに済ませるなら済ましたかったのが正直なところだった。
「……クリスくんにとって私って重要な話ができる相手じゃなかったのね。15年も一緒にやってきたのに」
「いやいや、そんなことないって。オリビアのことは頼ってるどころか、頼り切ってるし、感謝してるから!」
「大事な話もできない相手なのに? クリスくんが責任を取らずに済むようするにはどうしたらいいか、すごく悩んだんだけど?」
「ほんとごめんて!」
もはや俺に出来ることは謝ることだけだった。
そのまま祈るように手を組む謝罪のポーズをしていると、ため息を吐くようにオリビアは肩を竦めた。
「……もう良いわ。手が止まってる」
指摘されて手を解くと、俺はオリビアの反対の手を取って丁寧に洗い始める。
しばらくの間、俺たちは何も言わず、スポンジが肌を撫でる音だけが鳴っていた。
「……ほんとごめん」
「もう良いって言ったでしょ。愚痴ったら気が済んだわ。あんな話、何でもない普通の時に聞かされていたら頭がおかしくなったのかって心配になったでしょうし」
「理解していただき助かります」
自覚してるよ。だから話したくなかったんだよ。
ただ、こうなってみると話せたのは良かったと思う。
オリビアは俺が心の底から頼り切っている相手だ。そんな相手に隠し事をしていたという事実は意外と重かったのだと、今になって感じていた。
これからはちゃんと話そう。……話せることは。
俺が消極的な決意を心に刻んでいたら、オリビアがくるりと振り返り、俺の背中に腕を回して抱き寄せた。
「けれど、本当に良かったわ。クリスくんのことは正直ダメかと思っていたんだから」
胸が見えて、肌が触れて慌てたが、そのセリフを聞いて落ち着いた。
「騒ぎになってうちが混乱したら周りの領地も影響あるからな。ディアフローテたちもその辺りはかなり気を使ったらしい」
「ほんと、いらない苦労ばかりさせられたわね。今だから言えることなのかもしれないけど」
俺は楽園計画の話は誰にも知られずに進めたかったし、ディアフローテたちは領地の窮状を知られずに解決したかった。
それらの隠し事のせいで悩み苦しんだのがオリビアだ。
オリビアが愚痴りたくなるのも当然の話だった。
「「………」」
えっと……これからどうしよう?
三助に戻りたいのだが、オリビアが体勢を戻してくれないと洗えない。
「何を興奮してるの? はしたない」
オリビアが俺の一部を見たらしくそんな指摘をしてきた。
「いや、しかたないだろ? この状況でこうならない方がおかしいから」
「私、ヴィクトーリア様と歳がほとんど変わらないのよ?」
「関係ないって。オリビアは、その、綺麗だし」
オリビアは30半ばを越えているが、俺の目には20代の真ん中ぐらいにしか見えない。
しかも綺麗で、スタイルが良いとなれば、それを見てこうならない方が異常である。
とはいえ、こんなこっ恥ずかしいこと言わせないでほしい。興奮しちゃうわ。
「オリビアはさ、結婚しないのか?」
「結婚? いきなり何を聞くのよ? するわけないでしょう? この歳でもう結婚なんかできないわ」
「できないってことはないだろ? オリビアならまだまだ喜ばれると思うぞ? けどさ、子供を産むことを考えたら、あと1、2年がリミットだろう」
「………」
「それでも気が衰えるまで少なく見積もっても20年以上あるし、子供を産んだって成人までなら二人くらい十分育てられる」
「………」
「子供、産みたくないか? オリビアの子なら綺麗で優秀な子になると思うぞ?」
「………」
「オリビア? おーい、オリビアさーん」
「もう! しつこいわね! 興味ないの! 私はここでクリスくんの成長を見守るって決めてるんだから!」
「………」
驚きすぎてフリーズしてしまったわ。
なんだそれ? なんで自分の人生ほっぽって、そんなこと決めてるんだよ?
「……オリビア、もしかしてそんな理由で今まで結婚しなかったのか?」
「………」
「オリビア」
「そうよ! クリスくんを預かったあの日から、クリスくんの成長を見守るのが私の生きる目的になったの! だから結婚はしないわ」
ぷいっと顔を背けてしまったオリビアの横顔を、俺はジッと見つめた。
結婚・出産が女の幸せ、なんて前時代的なことは思わないし、そもそも女性社会であるこの世界では結婚・出産に関する考えも少なからず違っている。
それでも結婚はしないなんて言われると、人間の幸せの何割かを捨ててしまってると思えてしまうのだ。
しかも間接的とはいえ原因が自分にあるとなると、自分には関係ないと済ませられるほどオリビアは軽い存在ではなかった。
「オリビア、続きをするから前向いて」
俺はオリビアの肩を押して離すと、オリビアに体勢を戻してもらう。
スポンジをぎゅうぎゅう絞って泡まみれにすると、スポンジを横に置いて後ろからオリビアの胸を包んだ。
「ふあっ! ちょっ、何してるのよ!?」
手のひらが胸の頂に触れると、オリビアは背筋を伸ばして艶っぽい声を上げた。
慌てて振り返ろうとするオリビアの耳元に俺は素早く唇を寄せて囁いた。
「オリビアって子づくりの経験はないよな?」
「ひゃっ! な、ないわよ! 私は貴族の女よ?」
まぁ、そうだとは思っていたけど、もしかしたら俺が王都にいる間にかわいい男の子でも屋敷に呼んで愉しんでいる可能性も否定できないとも思って聞いてみたが、やっぱりそんなことはなかった。
けど今後も結婚する気もないとなると、そういうことをすることなく人生を終えてしまうってことだろう。
男である俺としては、一度も愛棒を使わない人生は嫌だなあと思うのだ。
女性が同じように思うものかはもちろん男である俺にはわからないが、今は俺の感覚で進めようと思う。
「子供ができるようなことはさすがにできないし、しない。本気で嫌だと言うなら止めるし、一度して嫌な気持ちになるならもう二度としないから」
「………」
俺の言葉に対するオリビアの反応は沈黙だった。
当然俺はその沈黙を肯定と判断し、オリビアの胸を揉むようにして洗い、首筋に舌を這わせて愛撫するように彼女のカラダを磨いたのだった。
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