川口直人 63
気まずい雰囲気のまま食事を終えると、すぐに常盤恵理が命じて来た。
「はい、スマホ出して」
手のひらを広げて催促してくる。
「…」
渋々新しく手渡されたスマホを手渡すと、睨み付けて来た。
「ちょっと…ふざけてるの?」
「え?」
「これは私が直人に渡したスマホでしょう?誰がそんなもの貸してって言うのよ!前から持っているスマホを出しなさいって言ってるのよ!」
「な、何だって…?どうして…?」
「どうしてですって?当然じゃないの?昔の女に電話を掛けていないか調べる為よ。ほら。やましい事が無いなら貸しなさい」
「…ッ!」
何てイヤな女なんだ…!無意識のうちに俺は常盤恵理を睨み付けていた。
「な、何よ。その反抗的な目は…。私にそんな態度を取っていいと思っているの?川口家電の社員が貴方のせいで路頭に迷ってもいいと言うのね?」
「そ、それは…分った…」
仕方なしに自分のスマホを渡す。あれを見られたらどうしよう…。心臓が早鐘を打ち、口から今にも飛び出しそうだ。
常盤恵理は無言でスマホを手にするとためらうことなくタップした。
ピッピッ
スマホの操作音を鳴らしながらじっと画面を見ていたが…。
「ふ~ん…連絡はいれていないみたいね…。でもまさか元恋人の名前を男で登録していたりしていないわよね?」
「あ、当たり前だろう?そんな事するはずはない」
良かった…事前に鈴音の発信履歴を消しておいて…。それにしても物凄い発想力だ。心底、この女が恐ろしく感じる。
「そう?でも男はすぐ嘘をつくからね…」
言いながらまだ俺のスマホを操作する事をやめない。
「おい?もういいだろう?いい加減返してくれ…」
言いかけた時―。
「な、何よっ!これはっ!」
突如目を見開き、俺を睨み付けて来た。
「え?」
その言葉に心臓が飛び跳ねそうになる。
「この写真…一体何っ?!」
写真だってっ?!
「この女が…直人の元恋人なのねっ?!」
画面を俺に見せて来た。それはディズニーランドの写真スポットで鈴音を撮影したものだった。そこには笑顔で映る愛しい鈴音の姿があった。
鈴音…。思わず胸が熱くなった。
だが…!
「何故勝手に写真を開くんだっ?!」
「何よ!私は貴方の婚約者なんだから調べるのは当然でしょう?!」
その言葉に呆れてしまった。
「当然…?当然だって?そんな権利、君には無いっ!」
ここがカフェだと言う事も忘れて俺も常盤恵理も声を荒げてしまう。
「そんな事はもうどうでもいいわ。でもその態度にこの女の向ける笑顔…直人の元恋人なんでしょう?…ふん。大したことないわね」
その言葉に苛立ちが募る。
大したこと無いだって?鈴音がどれ程綺麗で、心が優しい人間かも知らないくせに。お前の方が余程鈴音に劣っているくせに。
俺は心の中で毒づいた。
「名前は?」
「え?」
「だから名前よ!この女の名前を教えなさい」
「何故だ?何故名前を教えなくちゃならないんだ?」
こんな女に鈴音の事を話せるものか。教えれば…鈴音に何をしでかすか分った物じゃない。
「あら…そう?川口家電の社員がどうなっても…」
「それでも言うものか。そんなに川口家電を追い詰めたいならそうするがいい。だがな…そんな事をすれば…俺は一生お前を許さないからな」
俺は憎悪を込めた目で常盤恵理を睨み付けた。
「…!な、何よ…!そ、そんな事したって私と貴方は結婚するのよ?!」
「ああ、お前が望むならそうするしか無いだろう?だが、うちの会社を完全に潰そうとするなら…一生 お前と、常盤商事を憎むからな」
「…!わ、分ったわよ…聞かないでおくわよ。ならいいんでしょう?その代わり…いまここで全ての画像を消しなさいっ!」
「…分った…」
そして俺は常盤恵理の見ている目の前で鈴音の画像を1枚ずつ削除させられていった。
鈴音…。
鈴音の画像が消えていくたびに…自分の心が徐々に失われていく…。
そんな感覚に襲われながら―。
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