第14章 14 訳の分からない涙
「どういうつもりで電話を掛けてきたのかは知らないけど・・私の事はもう気に掛けないで。それじゃ・・・切るからね。」
「え?お、おい鈴音・・」
プツッ
私は亮平がまだ話しているにも関わらず、電話を切ってしまった。
「話し・・終わったの?」
川口さんがためらいがちに話しかけてきた。
「え?あ・う、うん。まあね・・・。電話ありがとう。」
スッとテーブルの上にスマホを返すと、私は再び蓮華を手に取ると言った。
「あ~あ・・・折角の天津飯がさめちゃったな・・・。」
「加藤さん・・。」
神妙な顔つきで川口さんが見つめている。
「ほ、ほら。食べよう。冷めちゃうよ?中華は温かいうちに食べるのが一番なんだからさ?」
「う、うん・・そうだね・・。」
その後、私達は何となく気まずい雰囲気で食事を進めた―。
「ありがとうございましたー。」
店員の声に見送られ、私達は店を出た。
「それじゃ・・帰ろうか?」
店を出た私は川口さんを振り向くと言った。
「う、うん・・そうだね・・帰ろう。」
そして私達は2人で並んで歩きだした。少しの間互いに無言で歩いていると不意に川口さんが口を開いた。
「加藤さん。」
「何?」
「あの・・亮平って幼馴染・・・ひょっとして加藤さんに気があるの?」
「え?」
川口さんがあまりにも突拍子の無いことを尋ねてきたので私は驚いて思わず足をとめてしまった。
「亮平が・・・私に気があるって?」
「・・うん・・・。」
神妙な顔で頷く川口さん。
「やだな~違うよ。だって亮平が好きな人は私のお姉ちゃんなんだから。」
そして再び歩き始めると、また川口さんは尋ねてきた。
「それじゃ・・加藤さんは?」
「!」
「加藤さんは・・彼が好きなの?」
「あ・・わ、私は・・。」
亮平の事は諦めなくちゃいけない。自分でそう言い聞かせているのに、問い詰められれば心が揺らいでしまう。
「あの・・。」
すると・・・・。
「あ・・ご、ごめんっ!今言った事は・・忘れて貰えるかな?」
川口さんは髪をかき上げながら言う。
「俺には・・そんな事は聞く資格ないから・・。彼氏でもないのに、変な事聞いて・・ごめん。」
素直に謝られると、どうしようもない罪悪感が込み上げてきた。
「川口さん、私は・・・。」
「いいんだ。気にしないでくれよ。明日から仕事なんだよね?早く帰ろう。」
「うん・・そうだね・・・。明日から仕事だし・・。」
そうだ。今の私は亮平の事を考える余裕はない。明日から・・7か月ぶりの仕事なのだから・・。
私達は互いのマンションまで無言で歩いた―。
マンションに着くと、私は川口さんに向き直ると言った。
「今日は誘ってくれてありがとう。それに・・御馳走になっちゃったし。」
「こっちから誘ったんだから当然だよ。それで・・明日から仕事なんだよね?」
「うん。そうだよ。」
「心配だから・・明日から朝、晩・・電話を入れてもいいかな?」
「川口さん・・・。」
私をじっと見つめる目は真剣だった。
「うん・・いいよ。ありがとう。気にかけてくれて。」
すると、川口さんが言った。
「・・違うんだ・・。」
「え?」
「あ、い・いや・・勿論心配だって言葉に嘘は無いけども・・電話を入れたい本当の理由は・・加藤さんの声が聞きたいからなんだ。君の事が・・好きだから・・・。」
「か、川口さん・・・。」
どうして・・この人はこんなにも素直に自分の気持ちをストレートにぶつけてくるのだろう。私は・・そこまで思われるような大した人間じゃないのに・・。だってその証拠に亮平は一度も私の事を・・・。
「え?ど、どうしたの?!加藤さん?」
突然オロオロした様子で川口さんが声を掛けてきた。
「え・・?どうかした・・?」
「いや・・どうかしたじゃなくて・・何で・・泣いているの・・・?」
「え?」
驚いて指先で目じりに触れると、そこにははっきり涙が浮かんでいた。
「や、やだ・・私、なんで・・・?」
慌てて目をゴシゴシ擦る。
「加藤さん・・・!」
すると突然川口さんに手首を掴まれ、引き寄せられた。
そして気付けば私は強く抱きしめられていた―。
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