第7章 11 2人の思い出話

「鈴音・・・。珍しいな?お前がそんな事言うなんて・。」


亮平が私のベッドのそばに座りこむと言った。


「ごめんなさい・・・。」


私は布団をかぶると言った。どうしよう、こんな事言うつもりなかったのに・・気づけば勝手に口が動いていた。きっと呆れられたに違いない。


すると・・・。


「分かったよ・・。」


「え?」


私は布団から顔を出すと亮平の顔を見た。


「いいの・・・本当に・・?」


「何だよ?鈴音・・・そんな顔して。まるで子供の頃に戻ったみたいだな?泣きそうな顔して・・。大丈夫だよ、お前が寝るまでは・・・ここにいるから、だから早く良くなれよ?」


「うん・・・ごめんね・・ありがとう・・。」


「気にするなって。考えてみれば俺はここ最近、お前に自分の要求ばかり突き付けていたもんな?お前の都合なんか考えもしないで・・。」


「・・・。」


私は目を閉じて亮平の話を聞いていた。亮平の声は・・聞いていると心地いい。だから私はこの際だから、もう少しだけ我がままを言ってみたくなった。


「ねえ・・亮平。」


「何だ?」


「何か・・話してよ・・。」


「ええ?何か話してって急にそんな事言われてもな・・。」


参ったなと言いながら亮平は床の上に座り、私のベッドに寄り掛かりながらポツリポツリと話し出した。


「鈴音・・覚えてるか?高校生だった頃・・良く2人で部活の帰り・・・カラオケに行ったよな?」


「うん・・・。そうだったね・・・。だってあの頃・・カラオケブームだったじゃない。」


「ああ・・翌日練習がない金曜日とかに行ってたな?」


「そう・・・だったね・・。」


「それでさぁ・・・あれは高2の時だったかなぁ・・・鈴音、フリードリンク取りに行ったとき・・・他校の奴らからナンパされていただろう?」


「そんな事・・・あったっけ・・?」


「ああ、そうさ。お前がいつまでたっても戻ってこないから心配して見に行ったら、お前、ナンパされているから驚きだった。」


「ふ~ん・・。」


「何だよ、随分他人ごとだな?自分の事なのに・・。まあいいか、それで俺が様子を見にったらお前、腕を掴まれてたじゃないか。それで俺がその手を離せって言ったら喧嘩になって・・。」


あ・・そう言えば何となく覚えている・・。あの時、亮平すごくあの人たちに激怒してたっけ・・。


「結局大騒ぎになって、店の人たちがやってきてさ・・・俺達、あいつらも含めて出禁にされてしまっただろう?」


「うん、そうだったね。」


ようやく全部思い出せた。


「それで・・俺達、2人でカラオケ行くのやめたよな?」


「うん・・・やめちゃったね。」


「だから・・俺はあの日以来一度もカラオケにはもう行ってないんだ。」


「え・・?ど、どうして・・・。」


しかし、亮平はそれには答えずに言った。


「ほら、鈴音・・眠そうだ。寝ろよ。」


亮平は振り向くと私の頭を撫でてきた。フフ・・気持ちいな・・・。どうして今夜はこんなに優しくしてくれるんだろう・・?やっぱりこれは夢なのかな?でもこんな幸せな夢なら・・夢から覚めたくない・・・。


そして私は眠りについた―。



****


・・どこかで人の話し声が聞こえてくる。


「ああ・・分かってるって・・だから泣くなって・・・。今帰るから・・。」


え・・亮平の声・・・?


「当り前だろう?俺が好きなのは・・・忍だけなんだから、だから泣きやめよ。ああ・・・もちろんだよ、忍。俺も・・・愛してるよ。」


そして電話を切ると亮平がため息をついた。


「亮平・・・・?」


うすぼんやりと目を開けると、亮平が驚いたように振り返った。


「あ・・鈴音・・・。お前・・目が覚めたのか・・・?」


「うん・・ひょっとしてお姉ちゃんからなの・・?」


「あ、ああ・・。クリスマスなのに・・どうして1人きりにさせるんだって・・・泣いているんだ。俺・・行かないと。」


亮平は私の返事も聞かずに立ちあがった。うん・・・そうだよね・・・亮平はお姉ちゃんの恋人なんだから・・。


「じゃあね・・ありがとう、亮平。」


私はベッドから起き上がった。


「お、おい?!何で起き上がるんだよっ?!寝てればいいだろう?」


「だって・・亮平が帰った後・・鍵かけて戸締りしないといけないから・・。」


熱で頭がフラフラするけど、何とかベッドから起き上がった。


「鈴音・・・。悪いな・・。」


私は黙って首を振った。


亮平はコートを着て、カバンを持つと言った。


「じゃあな。鈴音・・・冷蔵庫に色々食べ物用意しておいたから・・食べろよ?」


玄関まで来ると亮平は振り返って私を見る。


「うん・・・色々ありがとう・・・。」


壁に寄り掛かりながら私は言った。身体がだるくて立っているだけでもやっとだった。


「それじゃ・・。」


そして亮平が玄関から出て行って、ドアが閉まると私はガチャリと鍵をかけ・・・壁に手を置きながらベッドまで何とかたどり着き・・・布団に入ったところで私の意識は無くなった―。

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