operations-03



 マニーカが海底を暴れ回り、浮遊鉱石が掴み易い大きさに砕かれていく。水が濁ってしまい何も見えないが、浮遊鉱石はかなりの量が砕かれたようだ。


 あまり砕き過ぎても、今度は浮遊鉱石の運び出しが間に合わない。浮遊鉱石は水にも浮いてしまうため、ラハヴ達が管理しきれなくなれば海流に流されててしまう。


「マニーカ! いったん止めてくれ!」


 ≪ワカッタ。ドウダイ、ウマクイッテイルカイ≫


「上手く行き過ぎて追いつかないくらいだよ」


 周囲の水が透明度を取り戻す。ライトが照らす先には、水中を漂うこぶし大から直径数メルテ程までの浮遊鉱石があった。


 ラハブ達が流されないように上手く掴んだり、嫌っていたはずの網を使って細かな石を集めていく。今回の作戦は、人よりもラハヴやマニーカ達の働きが大きい。


 ≪わはははっ! 凄いよ、浮いちゃう!≫


 ≪これ楽しいな、ひと欠片欲しいな!≫


 もっとも、ラハヴ達は働いている意識は全くなさそうだが……。


 ヴィセは水中の状況やラハヴ達の動きに合わせ、マニーカに鉱脈を砕かせたり、休憩させたりを繰り返す。マニーカはマニーカで、浮遊鉱石の鉱脈の中が心地良いらしい。


「マニーカ、時折背中が見えているけれど、大丈夫なのかい」


 ≪平気ダヨ。穴ハスグ塞グ カラ、潜レバ問題ナイ。土ヤ岩ガアレバ生キテイケル≫


「呼吸、出来るのかな。マニーカの生態が一番謎かもしれない」


 どれくらいの量が掘り起こされたのだろう。あまり多ければ、ドラゴンでさえも浮遊鉱石と共に浮き上がるかもしれない。


 ≪網がいっぱいだ、おれ達まで浮き上がっちゃうよ! ドラゴン達が網ごと石をドラゴニアまで運ぶから、一度浮上しよう≫


「分かった! マニーカ、いったん休憩になった!」


 ≪ワカッタ、再開スルトキ ハ 教エテオクレ≫


 潜水艇が排水を始め、ラハヴ達が下から持ち上げて浮上を助ける。ゆっくりと浮上した潜水艇は、海上に出た後で船に固定された。


「ヴィセくん、どうやら上手く行っているようだね。おれ達の目の前で、ラハヴ達がどんどん浮遊鉱石を海面に押し上げていた」


「ドラゴン達がとてもに、大きな網に入った石を運んで行きましたよ!」


「第1便は上手くいっているようですね」


 仮に運び出したものが浮遊鉱石でなく花崗岩だったとしたなら、もう500トン程になっていただろう。それ程の量を、数十体のドラゴンが運んで行った。


 まだまだラハブ達が漂う浮遊鉱石を集めている。もう用意した網がなくなりそうだ。


 採掘地点まで4時間、更に潜水して浮遊鉱石を運び出して5時間。既に半日近い時間が経っている。代わりの網が到着しても、ドラゴン達がドラゴニアまで飛び、また戻ってくるのは夜になりそうだ。


「海面の浮遊鉱石を集めよう。これだけが漂っていれば、どこかの岸に流れ着く。海に浮遊鉱石があると勘付かれる」


「目の細かい網が1つある。小さいが十分だろう。ラハヴ様を巻き込まないよう、呼びかけてくれないかい」


「分かりました。ラヴァニ、そろそろ陽が落ちてしまう。ラハヴ達も疲れたはずだ」


 ≪数日は続けなければ、ドラゴニアの浮上には足りぬだろう。網さえあれば、後は我らが連携してもいい≫


「そうだね……一度島に戻ろうか。仲間達に伝えてくれるかい。ラハヴのみんな、マニーカに今日は終わりって伝えて欲しい!」


 ≪分かったよ!≫


 初日の作業は大成功だった。明日、ドラゴン達に状況を尋ね、どれ程必要なのかを教えてもらえばいい。霧の層が薄くなれば、ドラゴニアが再び動き出す。高度も上がれば低い山の部分を超え、海上に出る事も出来るだろう。


 後はドラゴン達に頼るしかない。霧の海と呼ばれた惨劇の始まりの大陸は、もう間もなく姿を変える。


 モスコ大陸の霧に着手出来れば、きっと人々も分かってくれる。


 ≪ヴィセ、明日からしばらくは我らだけで良い。ドラゴニアのためだ、手伝ってくれるラハヴ達もマニーカ殿も、希望するなら我らがドラゴニアへ案内しよう≫


「いいのか? それならラヴァニと俺とで空の警戒をしないか」


 ≪そうだな。ヴィセが我の背に乗り、人と共に行う作業であると知らせる事は良い事だ≫


 ヴィセとラヴァニがそう話し合うも、それを止めたのはラハヴ達だった。


 ≪んー、それだと浮遊鉱石が見えないんだ。運ぶだけならいいんだけど、浮き上がった石がどこに流れるか分からないよ≫


「あー、そうか。潜水艇がないと、目印の場所が分からなくなるし、砕いた浮遊鉱石を拾えないのか」


 作業場の問題点はあるが、あとは日数の問題だけだ。最善策を考えつつ、ヴィセ達は今日の作業を終えた。





 * * * * * * * * *





 翌日。ラハヴ達は夜明けと共に海面上に顔を出した。ヴィセは島民達と共に船の上で過ごし、ラヴァニも小さくなって休んでいた。


 夜中に風が強くなり、波もうねるように高くなったのだが、島民は慣れたものなのか、大声で何かを言いながら船を動かしていた。ヴィセは流石に1度だけ吐いてしまったが、なんとか無事だ。


 遠洋漁業用の船は、ドラゴンが2匹羽を休められる甲板も備えている。これがもっと小さな漁船だったなら、ヴィセは起き上がれなかったかもしれない。


「あー……寝られなかった。ラヴァニ、大丈夫か」


 ≪ウッ……大丈夫だ、問題な……問題ない≫


 魚を何匹か焼き、シードラやラヴァニに食べさせる。暫くして今日の作業が始まった。1隻の船が島に戻り、昼前には代わりの船が到着するはずだ。


 ドラゴン達が網を運んで戻って来る。ドラゴン達はただの石となった部分を鋭い爪で剥がした後、無事に浮遊鉱石を馴染ませたようだ。


 ≪要らぬ部分が落ちた事もあり、浮遊鉱石を馴染ませたなら高度が多少上がったようだ。底が霧の層から離れた≫


「本当か!? よし、成功だ! 後は霧の濃度を下げて、霧の海を浄化するだけ……」


 ヴィセと操縦士が再び潜水艇に潜り込み、2日目の作業が開始となる。今日はドラゴン達が霧の海へと浮遊鉱石を運び、霧がどれくらい消えるのかを試す。


 昨日とは少し離れた場所でマニーカを呼び、今日も岩盤を砕くように頼む。ラハヴ達が明かりを頼りに石を集め、網に入れては楽しそうに浮いていく。


「ヴィセさん。これだけ運んで、霧はどれくらい晴れるんですかね」


「さあ、どれくらい吸ってくれるのか。ただ、内陸の土地では浮遊鉱石の鉱脈が水の中の霧毒を浄化して、150年も保ってくれています。かなり吸ってくれるはずです」


「我々は海の上で生きているから、直接的にはどんな状況か分からない。でも一度終わった世界が再生するのなら、それは大歓迎だ。汚染された河川の水は、少なからず海を汚しているし」


「そうですね。ゆくゆくは全ての水と土を綺麗にしたい。ラハヴと土竜のためにも」


 ヴィセと操縦士の男がラハヴ達の指示通りにライトの方向を変える。


 今日の作業も順調に進み、もうじき網を使い切りそうだと思われた頃。ふいに船内に電話が鳴り響いた。


「うわっ、びっくりした! ……はい?」


『ああ、大変だ! 誰か俺達の作戦を嗅ぎつけた! 飛行艇がドラゴンを狙ってる!』


「なんだって!?」


『早く上がって来てくれ、いったん作業は中止だ、島に戻ろう!』


 電話の声は、操縦士にも聞こえていた。ヴィセは落ち着いてマニーカやラハヴ達に呼びかける。


「ドラゴンが狙われている、作業は中止だ! みんな、念のため隠れて欲しい!」


 ≪分かったよ。浮上は手伝うからゆっくり上がろう≫


「マニーカ、君は島の沖の浅瀬まで! 封印で小さくした後、島に連れて行く!」


 ≪ワカッタ。デハ、マタアトデ。気ヲツケテネ≫


 操縦士が重り代わりの海水を抜き、浮上が始まる。ラハヴ達の何匹かも、飛行艇に追われるドラゴンを目撃しているようだ。


 ≪ラヴァニさんが炎を吐いていた! あれは凄い!≫


 ≪ビュイーンが何かをドドドって、当てようとしていたんだ≫


「ビュイ……噂に聞く戦闘機か。ドラゴンが何のために頑張ってくれてるか、何で分からないんだよ……!」

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