5-6.『授業料はきっちり頂くぞ』
轟ッ――
地下駐車場全体を揺らすほどの衝撃。
天井や柱から
一拍遅れて通り抜けた衝撃波が、それらを残らず吹き飛ばした。
壁に穿たれた一際巨大なクレーターの中央。
そこに埋まった身体を引き抜いた巨漢は、苛立ちの唸りを上げながら首を巡らせる。
――激突の直前、
激突した際の右肩の傷が治り切っていないことなど気にも留めず、巨漢が後ろを振り向くと、
そのままぐるりと回ってうつ伏せに倒れ込んでしまった。
「……あ?」
「――脚の感覚が無いのが不思議か?」
間抜けな声を漏らした巨漢は、頭を持ち上げて声の方向を睨む。
先ほどまでの焦りなど
悠然と立つその足下には、
そこは、巨漢自身が
――やっぱりな。
倒れ伏している巨漢を見ながら、アルバートは得心行ったように頷く。
殺すたびに加算されるのは、身体能力だけ。治癒速度まで強化されるわけではない。
限界以上の
だからこそ、大量の
その結果、小指一本ほどの力で、羽虫を払う程度で、肉体を自損させるほどにまで奴の
そんな状態で本気を出せば――
慌てて立ち上がろうとする巨漢。
コンクリ床に手を突くと、軋みを上げた両腕の筋肉が裂けた。
凄まじい激痛に、開かれた口から噴き出したのは絶叫――ではなく鮮血。
異常な速度の拍動に耐え切れず、心破裂でも起こしたか。
――そう、〈
まるで酒樽が巨大なプレス機で押し潰されるように、赤黒い液体が各所から次々と噴き出す。
死する者への同情と虚無感を、
「良い勉強になったな。無免許がイキって高級車に乗るからこうなる……身の丈に合わない力は誇るもんじゃない」
「おまけにアクセル全開でギアチェンジするとはね。そんなことしたら事故るに決まってんだろ」
「あと、
懐から抜いた拳銃を、迷うことなく頭蓋に
「来世で間違えなくて済むんだ、
「やめっ――」
乾いた銃声が、血泡で
◆◇◆◇◆◇
「……あれ?」
必殺の拳を打ち放ったマグナスの口から漏れたのは、間抜けに
拳が相手に触れるのが、予想より数秒速かった。
それに感触も違う。鼻骨を
不意に蛍光灯が咳き込むように明滅し、息を吹き返す。
光に
「――自分語りもいい加減にしろー?」
呆れの溜め息を吹き掛けるワイスは、目を閉じたまま右手で拳を握り止めていたのだ。
「調子乗ってトドメ刺さずに喋り出すとか、
腕を引こうにも、細い五指には砕き潰さんばかりの力が込められていて外せない。
マグナスは打ちのめされたように呆然とする。その腕の震えは拘束から逃れようとする
「なん、で、どうして……お前は殴られるばかりで、抵抗なんて出来ないはず……」
「え? なにお前、サッカーでフェイント掛けられただけで反則だーって騒ぐの?」
「……は?」
「殴られる瞬間によろけて、
――なんか手応え軽いなーって、思わなかった?」
瞑目したままのワイスは左の手刀をゆっくり持ち上げ、彼の
「だが、目と耳は確実に潰したんだ……そんな状態で、俺の攻撃を受け止められるわけが……」
「ハ、そんなの決まってんじゃん――」
目に映る現実を拒絶しようと首を振るマグナス。
その動揺に震える声を鼻で笑って、ワイスは拳を掴んでいた右手を離した。
と同時に踏み込み、手刀を握り込んで
空気の破裂するような
身体をくの字に折ってぶっ飛んだマグナスはエレベーターの扉に激突。金属の歪む不協和音が部屋に反響する。
分厚い鉄塊がひしゃげるほどの威力に昏倒し、マグナスは背を預けたままずるずるとへたり込んでいった。
残心の後、手の甲で鼻を押さえて顔を顰めるワイス。
長い睫毛がゆっくりと持ち上がっていく。
その奥で光を取り戻した碧眼は、死にかけの害虫でも見るように冷え切っていた。
「口
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