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「あァ?」
大規模攻撃には大規模攻撃で返すのが
迫る氷雪を『破界』で迎えるべく、樹鉄刀の切っ尖を足下に突き立てる。
然れども、違和感に眉を顰めた。
階層から、エネルギーが奪えない。
「……ン……そうか。そうだよな」
地水火風空。
あらゆる事象が鎖され、何もかも凍り付いた世界。
奪えるものが、そもそも存在しない。
「素寒貧じゃ跳ねさせたところで小銭の音も鳴りゃしねェ」
…………。
今更な疑問だけれど、こんな環境下にも拘らず、俺の五体も識覚も平常運転なのは何故か。
まだ猶予はある。少し考えてみよう。
考えてみた。
「駄目だな、分からん」
ホワイトフラッグ。普通に無理、考えるだけ無駄。
シンプルに脳機能の限界。この現象は、あまりに人智を離れ過ぎている。
「『豪血』が上げてくれるのは思考速度だけだからなァ」
知力自体は据え置き。スキルを得る以前と変わらず、人の域に留まったまま。
完全索敵領域内で拾い上げた情報を理解するだけのスペックが、そもそも無い。
「名状し難し」
ただ、仮説を立てるなら、恐らく俺を停めるには出力不足なのだろう。
連鎖的に行動の阻害も適わず、視えるし聴こえるし動ける、と。
「なーる」
ひとまず得心。
原理こそ皆目見当もつかんが、齎される結果と性質は把握した。
然らば、十分。
「流動の緊縛。変化の否定。森羅万象の固着」
弱体に弱体を重ねていた前回は氷の
フォーマルハウトにとって、冷気なんぞチカラの上澄みに過ぎない。
奴の本懐は、もっと深く、ずっと遠く、見晴らせないほど高次に在る。
「静止の統馭……ああ、良いな。この表現が洒落てる」
根源的な意味合いでのフリーズ。
物質、運動、熱量、概念。世を形作る悉くに停止を強制させるチカラ。
語るに及ばず権能級。
ヒューマンでは認知すら不可能なプログラムコードを用いた、位階自体が異なる魔法。
「が、しかし」
番式を腰だめに構え、深く踏み込む。
「こっち側に干渉出来るなら、向こう側にも干渉出来る道理」
氷雪に呑まれる刹那。振り抜いた。
──ハガネの妃陽丸を折った際、ひと欠片だけ刃を喰わせた。
事象をも裂く奇剣の刃を、だ。
即ち。今の樹鉄刀に斬れぬものなど、あんまり無い。
「一振一殺一切一断」
凍てた世界を覆う薄氷が、高音と乱反射を伴い、割れ砕ける。
そして。総ては再び、動き出す。
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