585・閑話32






「はあぁぁ……」


 寝台に横たえた身を起こし、吐息する。

 呼吸のひとつも命懸けとは、実に難儀な肉袋。


「リシュリウ様。御身体に障ります」

「うるさい、ですよ」


 視界に入った侍従を、手で軽く払う。

 加減に加減を重ねたものの、勢い余り、四散させてしまった。


「ああ」


 部屋が汚れた。掃除させなければ。

 いや、薬が先か。


「なんて、もろい」


 人の身体は不便が過ぎる。

 器の性能も強度も、何もかも致命的に足りていない。


「あのこ、を、うばえれば。はなしは、かんたん、だった、ものを」


 …………。

 まあ、そう焦る必要もあるまいと、彼女は微笑う。


「ふふふふふ」


 饗宴の引鉄は定まった。

 然らば、あとはゆるりと待てば良い。






 動き始めた時計の針は、もう決して止まらないのだから。





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